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何とも痛々しいそれは、中学生の頃と同じように、輝かしい笑顔を浮かべる関と対比していた。
「大変な目に遭っているのは、全員一緒なんだな。それが知れて嬉しいよ」
「せっきー、その痣は」
「会社で、上司からちょっとな」
ちょっと、で済まされるわけがない。上司から、ということは思い切り殴られ……もしくは叩かれ……?
「世間より恐ろしいものは無い。こうなってから、一度だけ黒マスク着けずに出勤したんだよ。すれ違う奴の七割は、俺の顔をチラ見すると、何事も無いかのように目線を逸らす。残りの三割は“何あれ、可哀想”という善人アピールの視線を送る。嗚呼、おかしい」
関は黒マスクを穴底に打ち付けようとするが、彼の思惑通りとはいかず。それはひらひらと宙を舞って、地面に着陸する。その様子は、空を旅するパラシュートを連想させた。
ただ一つだけ言えるのは、目の前に居る関は中学生時代の関と同一人物ではないということ。
昔の関は、口癖のようにあの言葉を呟いていた。
『俺は、今やりたい一つのことを、全身全霊で取り組む。死ぬまでにやりたい十のこと、じゃない。いつ現世にお別れしても良いように、存在証明をするために、生きる。三葉ちゃんも、そんな俺の仲間にならない?』
放課後の教室で、落ち込みやすい私を励ましてくれたあの日を想うと、果たしてここに居るのは本当に、菅野関なのか? と疑問を抱いてしまう。
……いや、考えを訂正しよう。芯の太いハートに、何らかの拍子に亀裂が入ったことで、彼の光が剥がれ落ちたんだ。結果、残ったのは今の菅野関。それの方がしっくりくる。
勝手に納得していると、三人がいきなり、私に向き直る。その目には、悲哀を含んでいた。一体、どうしたの?
「……ごめんな、三葉ちゃん。演技するの疲れた。一番の災難に遭ったのは、三葉ちゃんだよな」
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