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「それでね、ヤマモトさん。あんまり主人に対する不満が溜まっちゃったから……。いつものお薬を一瓶、また、いただこうと思ってね」
ひとしきり愚痴を吐き出したアレクサンドラは、少しだけスッキリした顔で、ようやく品物の注文を口にした。
「はい、オベク・アルプですね? 毎度お買い上げありがとうございます」
オベク・アルプは、現在の俺の店の主力コンテンツだ。
回復ポーションや解毒ポーションなど、よそから仕入れた商品も店にはあるが、このオベク・アルプは違う。俺の店でしか扱っていない、俺のオリジナルのポーションだった。
前世知識を組み込んで開発したポーションであり、世間では『幸せになれる魔法薬』という俗称で知られている。
「ええ、それをお願いするわ。使い方は、いつも通りよね?」
「そうです。もうお馴染みだと思いますけど……」
常連であるアレクサンドラにも、服用上の注意など一応は説明しておこう、というタイミングで。
「あのう……。ごめんください」
扉につけた魔法ベルが、カランコロンと音を立てる。また別の客がやってきたのだ。
「はい、いらっしゃいませ」
まだアレクサンドラ相手に接客中だったが、とりあえず挨拶だけはしておく。
見れば、二十代半ばくらいの金髪美人。少し耳が尖っているのは、エルフ系の血が混じっているのだろう。白いワンピースに水色のセーターを羽織った姿は、少し儚げに見えて、俺の頭に『薄幸の美少女』という言葉が浮かぶくらいだった。
目が合ったことで、彼女は少し誤解したらしい。もう前の客は終わった、と判断したらしく、注文を始めてしまう。
「すみません。こちらに『幸せになれる魔法薬』があると聞いて、参りました。一瓶わけてくださいませんか?」
「あら、ちょうど良かったじゃないの。私も今、同じものを買ったところよ」
顔見知りではなさそうだが、アレクサンドラが気さくに声をかける。
ならば、俺もその流れに乗らせてもらおう。両方の客を、同時に相手することにした。
「はい、ではこちらのお客様もオベク・アルプですね」
同じ棚から小瓶をもう一つ取って、それぞれ紙袋へ。手を動かすのと並行して、口も動かす。
「こちらはご新規さんですから、注意事項をよく聞いてくださいね。このオベク・アルプは『幸せになれる魔法薬』とも呼ばれているように、人の心に作用するポーションです。ですから……」
エルフ耳の金髪美人は、真剣な表情で、俺の説明に耳を傾けていた。
「……よくよく心を落ち着けて、穏やかな精神状態で扱ってください。服用のタイミングは、就寝時。小瓶の中身を一気に飲んで、ただちにお休みいただくと、幸せな夢と共にグッスリ眠れて、翌日には幸せいっぱいの朝を迎えられるでしょう」
うんうんと頷く、金髪美人。
「最初にも言いましたが、精神に作用する薬です。ですから、心を落ち着けることが、本当に大切です! 服用時の精神の状態次第では、うまく効かない場合も出てくるくらいです。その際は、またご来店いただければ、無償で新しい瓶を差し上げますので……」
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