2章 過去の話

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「そんなことがあって、齢19歳。腹立たしい父を見限る事が出来ず、若い時間をバイトに明け暮れた私の苦労は、こんな形で裏切られた訳です」 そう告げた私を見ながら、矢口はもにょもにょと口を動かしていた。 「あ、そんなかける言葉が見つからないみたいな顔しなくて大丈夫ですよ。立ち直りは早い方です」 実際、今のところ心は落ち着いていた。 人の怒りとは持続しない。 怒りの頂点でいられる時間と言うのは、案外少ない。 小学校の時などには、怒り狂っている同級生には10秒数えるように言えだなんて抜かした教師がいた。 怒り狂っている人間に10数えろと言える人間が正直どれだけいるのかはわからないが、ともかくそういった研究結果があるらしい。 今思えば、これから反抗期に入り始める子供が多い小学校高学年のうちに『もし怒りそうになったら自分の中で10秒数えろよ』と教えておこうという話なのだろうけど。 確かに怒り自体は割と収まった、今思い返せば部屋の破壊だって途中からは自棄と同程度の楽しさが含まれていたかもしれない。 何もかもどうでもよくなると言うのは楽しいものだ、初めて知った。 「随分、苦労をされてきていたんですね」 後藤は薄く微笑んでそう言った。 そこに同情の色は無い、矢口とは違ってもっと乾いた感じがした。 何となく、観察対象として見られている事は分かっている。 ジャーナリストと名乗っているが、スクープに関係のない私の話なんて聞きたがっているのだ、元々が相当な変人なのだろう。 今のところ喫茶ジャスパーに警察も訪れず、ニュースにもなっていないあたり、一度誓った約束は守る主義なのか、野望じみたものは無いのか、それとも本当はジャーナリストでは無いのか。少しの不信感を抱く。 「そうですね、それも私の人生ですから。で、ここからです、フルタと深夜の逃避行に繋がっていきます」
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