2章 過去の話

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「そうですね、確かに私はあの日自殺ジジイの犯行を収めようと、カメラ片手に張り込みをしていました」 「というか、自殺ジジイって有名だったんですね」 「そうですね、被害自体は多かったのですが、狙われるのが夜中に出歩く男性が多かったのです。気弱そうな男性を選び、死にたいんだと話しかけ、死んでもいいことないよと諭されて帰る。そんなことを続けていたんですよ。被害者側も特に金をたかられる等の被害がないせいか被害届を出す人が居らず、都市伝説的な存在になっていたんです。それに味を占めたのか、だんだん自殺をほのめかす行為がヒートアップしていったようですが。そんな自殺ジジイですが、今日の早朝に逮捕されたそうです」 何の気なしに後藤は言った。 思わずフルタも「え」とつぶやく。 「今回彼が逮捕されたのは、狙ったカップルの彼女の方が川に引き込まれて怪我をして、彼氏の方が自殺ジジイを殴って昏倒させたことで明るみに出ました。あのジジイなかなか逃げ足の速い厄介ものでしたからね」 私も何度インタビューしようとして撒かれた事か。そう拳を握り悔しがる後藤を、矢口は少し引いた目で見ていた。 「ジジイの身元ですが、なんでも小さな自分の会社を持つ社長だったらしいですよ。ただ不景気によって商いを畳んで、そうして隠居してから少しずつおかしくなっていったらしく。初犯は今から六ヶ月前、その頃は先ほど言ったように体格の細い気弱そうな男性選んで狙っていたようですけど、最近は貴方たちのように二人連れやカップルやらにも手を出すようになっていたようですね。こういった場合、精神鑑定に掛けられるんでしょうか、いえこれは私の憶測ですけれど」 ともかく、自殺ジジイの顛末はこうです。 せっかくの自殺ジジイの犯行現場であるお二人が映った写真も、どこにも出していませんでしたし。 そう続けた後藤は、ワクワクするとでも言いたげな顔で、では自殺ジジイに出会ってからジャスパーまでのお話を! と上機嫌だ。 矢口の身体が物理的に後藤から距離をとろうとするのを目のはじに捉えつつ、その後の事を思い起こしていた。
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