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テーブルの上には二つのアイスティ。僕の向こう側でおばあちゃんはモジモジしている。
「あの……笑わない?」
「笑いませんよ」
おばあちゃんはアイスティをストローで一口啜ってから覚悟を決めたようだ。
「私……、恋してるの……」
僕は頷いて微笑んで見せる。
「素敵ですね」
惚気かなぁと思いつつ続きに耳を傾ける。
「でも勘違いしないでね。私のパートナーはとっくに他界しているもの。不倫なんかじゃない。もう八十も過ぎてこんなこと言うのも何だけど……気になる人ができたの……。その人も独り身だからね。それと向こうもちゃんとおじいちゃんだから安心して」
モジモジしながら俯いて喋るおばあちゃん。何? この可愛さ?
「で、僕にお願いって恋バナを聞くことですか?」
おばあちゃんは手のひらをこちらに向けてパタパタと振る。
「違うの! あなたにお願いしたいのは、どうすれば可愛くできるかって話を聞いて欲しかったの……」
僕の胸にズキュンとくる。なんだこの可愛い言い草は。
「えと、一応念の為断っておきますが、僕は男性にモテたいからこういう格好している訳じゃありませんよ?」
「そんなつもりじゃなくて……、私が私を可愛いって思えるようにしたいの……。恋してるっていっても、この年だもの。どうかなりたい訳じゃないの。ただ可愛い格好でお茶飲みしたいなぁって」
いやいや。充分可愛いよ、おばあちゃん。とは思ったものの僕のやる気も出てきた。
「分かりました。僕で良かったら力になります。連絡先交換しましょう。僕のことはネルナって呼んで下さい」
「あら変わったお名前ね」
「もちろん本名じゃありません。男の娘してるときくらいいいじゃないですか。本名はいかにも男の子って感じであんまり好きじゃないので」
「素敵ね。私は幸代です。よろしくねネルナちゃん」
幸代さんの顔がパァッと明るくなる。キラキラと光る瞳は少女そのものだ。可愛いなぁ。
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