男の娘とおばあちゃん

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男の娘とおばあちゃん

 鏡の前で微笑んでみる。よし、今日も可愛い。髪のケアも肌のケアも万端。今日の服は地雷系と言われるけど、僕にとって問題ない。誰かの好意を惹きたい訳でも恋の相手を探しに出る訳でもない。リップを引いてバッグを手にいざ出陣。  僕は世間一般に男の娘と呼ばれる類の人種。スラリと伸びた白い足に見惚れていても男だと知って興味を失う人もいる。僕からしたら知るかって話なんだけど、下心を全身から放つほうが可笑しいんだ。  闊歩。僕はその言葉の響きが好きだ。格好いいじゃん。凛として颯爽と歩くという意味の響きが。街を歩けば皆が振り返る。その時間を堪能するのが僕の楽しみなんだ。  日焼け止めもしっかり塗って八月の日差しにも負けない。すげぇ美人とか呟いている人がいる。そうだろう? 僕は可愛いんだ。 「あのう」  突然に声をかけられた。ナンパかな? やだなぁ。  声のしたほうに振り向くとそこには小柄なおばあちゃんがいた。そんな馬鹿なと思い、周りを見回してみるが僕の近くに人はおばあちゃん以外に寄ってきていない。 「えと、僕に何か用ですか?」  お年寄りには優しく。僕のポリシーだ。こんな格好してるから性格悪い人とか思われたくないし。 「あれあれ。その声、男の子なの?」 「そうなんですよ。女の子だと思いました? びっくりさせてすみません」  おばあちゃんは、ふわりと笑う。上品な白髪に朱に染まった頬。いやいやと手を振る様も可愛らしい。 「びっくりなんかしちゃいないよ。街でよく見かけて、気になってて声をかけたんだよ。あなたなら私の悩みを解決してくれるんじゃないかって」 「お悩み相談ですか?」 「うーん。悩みと言えば悩みだけど、ちょっと家族には言いづらくて……」  人差し指と人差し指を突き合わせる姿も可愛らしい。 「じゃあ喫茶店行きましょう。こんな暑い日に立ち話もなんですから」  気になったのも確かだけど、このおばあちゃんに僕は興味が沸いた。仕草がとても可愛らしいんだもの。僕にとっての勉強にもなる。 「本当にいいの!? うわぁ嬉しい!」  手のひらを合わせておばあちゃんは、ぴょんと飛んだ。いやいや。可愛いが爆発してるよ。
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