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「ひゃー、暑い暑い。こんなときは家に帰ってクーラーつけてアイス食ってゴロゴロするに限るぜ!」
俺は急ぎ足で家に向かっていた。
「そこの緑色の服を着たお兄さん、薬はいかが?」
緑色、俺のことか?
俺はピタッと立ち止まって声のした方を向いた。
小柄の金髪で緑色の目をした女が、深緑のローブみたいなのをまとってうっすら笑みを浮かべながらこっちを見ていた。
何だ、こいつ?
「そんなに警戒しないで。怪しい者ではないわ」
「怪しい奴は大抵そう言うんだよ」
女はクスクス笑って、女の前に置いてある長机を指でトントンと叩く。
「まあ、そう言わないで。こっちにいらっしゃいな」
「……」
俺はそのまま立ち去ろうと思ったが、女の方からは敵意や悪意のようなものは感じない。
幸い、ここは涼しい。ちょっと気分転換のつもりで女の方に近づいた。
「ふふ、よくいらっしゃったわね。おひとついかが?」
机には『クスリ』と書いた紙が貼ってある。ふーん。
俺は挙手する。
「質問いい?」
「もちろん、何かしら?」
「誰の許可を得てこんなところで商売してるの?」
「へ?」
女がさっきまでの怪しげな雰囲気が一転、ポカンとした表情。なるほどなるほど。
「あとさ、君は薬屋なの?」
「え、ええ、もちろんそうよ」
「ふーん。じゃあさ、資格持ってる?」
「し、資格?」
女は驚いた表情になる。
「うん、資格。薬剤師の資格持ってる?」
「や、薬剤師?」
女はさっきまでの余裕な笑みが崩れてわたわたしている。これはこれは。
「あとさ、薬って何の薬売ってるの?」
「え、えっと、気分が爽快になる薬よ」
女は狼狽ぶりをなかったことのようにし、得意げに髪をかきあげて言う。
「ふーん」
「ど、どう? 買う気になったでしょう?」
「危ない薬だね」
「え!?」
女はすっとんきょうな声をあげる。俺はさらにたたみかける。
「通報します」
「えー!!!」
俺がスマホを取り出すと女は慌てて俺の腕を掴む。
「ちょっ、ちょっと待って! 私、危ない薬なんて売ってないわ!」
「でも、ここに書いてあるじゃない」
「な、何を?」
俺は机に貼ってある紙を指さして言った。
「『リスク』って書いてる。危険って意味だよね?」
「こ、これは左から読むのよ!」
「でも文字は右から読むんだと決まってるんだよ?」
「え!?」
女はまるで「今年から夏休みはありません!」と宣言された子供のような表情をする。
「とりあえず怪しいから通報だね」
俺がスマホを操作する。
「ちょちょ、待って! 私、その、そう! ほんとはこの国の人間ではないの!」
「外国人ってこと?」
女は指一本立てる。
「そうよ、それ!」
「なるほどね」
「ふふ、わかってくれた?」
女は安心したように髪をかきあげる。
「身分証明書ある?」
「へ? 身分証明書?」
「まさかないの?」
「し、失礼ね! あるわよ!」
女はローブの中から石を取り出した。
「何これ?」
「何って、身分証明書……」
「君どこの国の人?」
「え、キュラフロル……」
女は泣きそうな顔になる。さっきまでのミステリアスな雰囲気は何処へ。
「聞いたことないね」
「え……」
ガーンという暗いトーンの背景が見える。
「通報するね」
「こ、こんな、こんなの、もう無理ー!!!」
女は机と共にシュポンッと消えた。
「あーあ、行っちゃったか……」
じいさんが言ってた女の子ってあの子のことだよな。まさか今日来るなんて思わなかった。
ちょっと意地悪すぎたかもな。でも、かわいかったかも。
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