5人が本棚に入れています
本棚に追加
「娘の玲蘭です」
お父さんの声を聞いて。
「よろしくお願い致します」
しっかり前を見て、挨拶する。
それから。
いち、に、さん、し、ご。
心の中でゆっくり数えて、背筋を伸ばして、お辞儀する。
『彼』が「綺麗だ」と言ってくれた時のように。
静かに腰を下ろして。
前にも増して、視線を感じるレイラさん。
親族皆に食い入るように見つめられ、一生懸命平静を装いながら。
(お、遅れそうになった子だって思われてる!? どうしよう!?)
動揺しまくりで、緊張のあまり伏せ目がちになってしまって。
心の支えは。
『あんまり綺麗で、見とれた』
魔法の呪文みたいに、レイラさんの中でリフレインする言葉。
名も知らぬ『彼』の存在が、レイラさんの心の中で急成長してしまっている……ことに、レイラさん自身は、まだ気付いてない。
そして。
魔法の呪文は、実際にレイラさんを、とっても綺麗にしてくれてる……ことにも、全くレイラさんは気付いてなかったりする。
『今時、なんて奥ゆかしい、礼儀正しいお嬢さんだ』
なんて思われてることを知るのはまだ先のこと。
(あー、とっとと早く終わってー!)
なんて、罰当たりなこと考えていたレイラさんだった。
最初のコメントを投稿しよう!