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【1】
──あたしのための薬は、必ずシロップか粉だった。
幼い頃はともかく、真理愛が中学生になってからもずっと。
祖父母や父が故意にそうしてくれていたのもわかっている。病院での処方薬も、市販のものも、すべて。
元から粉末のものは別として、錠剤を勝手に粉状にするのは止められたらしい。だからどうしてもそれ以外の形状がない場合は、必ずオブラートに包んだ状態で渡されていた。
おそらくは、ときっかけとして思い当たる事象がある。
小学校の一年生だっただろうか。祖父が食後のダイニングテーブルで、何かの薬かサプリメントらしきものを服用しようと瓶を手にした。
傾けた瓶の口から、ザラザラと皴の多い掌に零れた白い小さな粒。
「あれ? ばあさん、これ何錠だった?」
普段ならその問いに呆れる筈の祖母は、祖父の手の上の「薬」をじっと見つめる真理愛に気づいたらしい。
「お父さん!」
祖母の鋭い声に、祖父はハッとしたように真理愛に目を向けて来る。同時に、錠剤を握り潰すかの勢いで拳が形作られた。
「真理愛、もう食べたしリビングルーム行こう。テレビ観るか?」
横から掛けられた、父の少し強張った声と笑顔を今もはっきりと思い出せる。
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