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「えーと、牛乳……。真理愛、これでいいんだよな!?」
自宅から徒歩数分のコンビニエンスストアで、父が自信なさ気に確認して来る。
「あ、そうだよ。ちょっと濃いやつね」
「よし、これ一本、と。……じゃあ真理愛、アイス見ようか。この奥だったか?」
牛乳をカゴに入れた父に訊かれ、慌てて手を振った。
「いや、いいよ。あんなの冗談だって」
「何を遠慮してんだ。パパもアイス欲しくなったから。一人じゃ食べにくいだろ」
真理愛に気を遣っているようでいて、この父はどこまで本気かわからないところがある。
「えー、パパしょーがないなあ」
苦笑しながら冷凍ケースに向かって歩を進める途中、何気なく眺めていた棚の商品に目が止まった。
「ねえパパ。あたし、これ欲しい」
「え? どれ──」
真理愛が指したのは、プラスティックの細長い容器に入った、昔ながらのラムネだ。白い小さな、粒状の菓子。
「……真理愛」
「パパ。あたしもう平気なんだ。だからこれ買って」
静かに返した真理愛に、父は一瞬息を呑んだ。
そしてふっと口元を緩めたかと思うと、右手を棚に伸ばしてその菓子を一つ取りカゴに入れる。
「アイスも買うだろ? いや、真理愛がいらなくてもパパは買う! なんかもうアイスの口になって来た!」
これは本心からの言葉か、それとも深刻さを払うための機転か。
いや、どちらでも構わない。父の言葉に自然と笑いが漏れて、心が軽くなったことだけが事実だから。
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