1216人が本棚に入れています
本棚に追加
「……ありがとうございます」
それしか言えなかったのに、すぐ情けなくなった。
ここはスムーズに微笑んで、「Thank you」とでも言うところなのに……ハワイのスマートな女性ならそうするだろうに……。
自分ははにかんで、日本語でお礼を言うしかなかった。
なんて慣れていなくて格好悪いんだろう。
思ってしまったのに、彼は笑みを崩さない。
そっとキャリーケースを元通り立てて、自分も膝を上げた。
果歩も慌てて立ち上がる。
だが長くしゃがんでいたからか、少しふらっとした。
ここしばらく、不眠が続いていたのもあったのだろう。
「あっ……」
軽い立ちくらみのようになってしまう。
その様子を見た彼が、果歩の肩を、がしっと支えてくれた。
「失礼。大丈夫ですか?」
丁寧に言われる。
手袋をはめた大きい手が、肩をしっかり包んでいる。
しかも支えられたくらいだから、距離が近い。
ふわっと、シトラスのような爽やかな香りが鼻に届いた。
ちょっとくらっとしただけなのだから、果歩はすぐにハッとして、恥じ入った。
今度はふらついてしまうなんて。
慌ててどこうとしたのに、彼はしっかり肩を包んで、果歩が倒れないようにそっと立たせてくれた。
果歩はどきどきしつつも、感じ入ってしまう。
手袋越しでも手があたたかいのがわかったし、がっしりしているのも伝わってきたし、それに触れる手つきがとても優しかったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!