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「す、すみません……少し、寝不足で」
恥じ入りながら言って、またしても情けなくなった。
こんなこと、言い訳ではないか。
いや、あまり眠れていないのは本当だけど。
でも彼は気にした様子もなく、しっかり一人で立った果歩の前に立ち直し、微笑んだ。
「いえ、旅行前は寝つきが悪くなる方も多いですよ。こちらは時差もありますし、今夜はゆっくり休まれてくださいね」
そんなふうに気遣われてしまって、果歩の胸はまたとくとくと速い鼓動を心地良く刻みだす。優しくしてもらってばかりだ。
「は、はい……本当にありがとうございます」
何度目かもわからないお礼を言う。
彼はにこっと笑い、すっと通路の先のほうを示した。
「良ければお出口までご案内しましょう」
そう言われて、果歩はびっくりした。
そこまでしてもらえるなんて。
明らかにパイロットの仕事ではないのに。
「えっ、そ、そんな、悪いです……」
なのにやはり、声と言葉はもじもじしてしまうのだった。
顔も赤いかもしれないのに、彼は気にした様子もなく、「失礼」と果歩のキャリーケースの取っ手を掴んでしまった。
そのまま軽々と引っ張りだす。
果歩はあまりに優しくされた動揺に、おろおろしながら彼についていった。
出口まで歩く間、少しだけ話をした。
「航空機操縦士の逢見といいます」
行きあっただけの女性相手だというのに、彼は丁寧に自己紹介してくれた。
果歩も慌てて「早瀬 果歩です」と名乗る。
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