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「早瀬さんはご旅行でこちらに?」
「はい。少しゆっくりしたい気持ちで……」
流石に『元カレに振られた傷心旅行です』なんてことは言わない。
少し濁すようではあったけれど、別段、なにもおかしくない理由を果歩は口に出した。
彼は穏やかに微笑んで、肯定してくれる。
「それは良いですね。今はハリケーンもないですから、海も穏やかです。是非バカンスを楽しんで行ってください」
確かに窓の外に見えるのは穏やかに凪いだ海と、明るい日差しだ。
ハリケーン……台風も来そうにない。
心配なく、のびのびと過ごせるだろう。
「はい! ありがとうございます」
明るく答えた果歩に、逢見はなにか思いついたような様子で言った。
「ところで私は今、操縦業務を終えたところなのですが、もしかして先ほど日本から到着した……」
どきっとした。
この口ぶりでは、まさか……。
「あ、はい! そうです! 八時五十分着の便で……」
果歩は期待してしまう気持ちが湧き上がるのを覚えながら、到着時間を口にした。
彼は驚いた、という様子で笑みになる。
「本当ですか。私が操縦していたんですよ」
期待した通りだったけれど、実際そう言われてしまえば、はっきり驚きが起こった。
「ええっ! そ、それはびっくりです」
声が跳ねあがってしまったくらいだ。
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