傷心旅行のきっかけ

2/3
前へ
/151ページ
次へ
 相対しているときは冷静だったけれど、それは家に帰ってくるまでであった。  ショックは遅れてやってきて、果歩はだいぶ荒れてしまった。  お酒は弱いから、酒浸りになることはなかった。  煙草も吸わないから、喫煙量が増えるなんてこともなかった。  でも代わりに甘いものを次々と食べてしまって、たった数週間で体重は数キロ増えた。  なかなか眠れなくもなった。  明け方まで寝付けないのもざらで、果歩は心も体もどんどん弱っていった。  それを見かねた上司が「社内医務室に行ってこい」と半ば無理やり社内のお医者さんを紹介してくれて、果歩は心理療法士というひとに、全部話した。  泣きながら、ぶちまけるようになった果歩の話を、三十代くらいの彼女は最後まで聞いてくれて、アドバイスをくれた。 「気分転換をしたほうが良いかもしれませんね。なにか好きなことを思い切りするとか、行ってみたかった場所に行くのも良いです」  びしょびしょになったハンカチを握りしめた果歩は、そのとき思いついた。  好きなことを思い切り。  行ってみたかった場所。  両方が叶えられるところがすぐに思い浮かんだのだ。  そこは海が美しい場所、ハワイ。  学生時代に一度だけ行って、とても楽しい時間を過ごしたのを思い出した。
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1216人が本棚に入れています
本棚に追加