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ずっとあなたを利用していたし、見ていたから
01
ミレイという男性には記憶がない。
とある組織に捕まって、体中をいじくりまわされたその弊害だろう。
しかし、不便はしていなかった。
どこかの危ない組織に囚われていたミレイは、とある少女に助けられたからだ。
その少女の名前は、パスカル。
心優しい少女は、ミレイを保護し、何かと気にかけてくれる存在だった。
そんな彼女が何かを頼むなら、断れるわけがない。
「ミレイさん、一緒に買い物に出かけましょう」
「わかった」
「お買い物メモです。今日は、この品物が必要ですね」
救出された日からミレイは、シェルターという組織の一員となった。
シェルターの構成員は多くない。
だから、ミレイが加わってからあまり日数が経っていないとしても、どんな顔ぶれがいるかはだいたい思えてしまっていた。
「今日の町の雰囲気が暗いですね」
買い出しに町を出れば、通りを行くかう人々はみな、景気の悪そうな顔。
ミレイが住んでいる大国には、多くの者達がいる。
しかし、異端認定された者達に住みかはない。
だから、パスカルたちは、そんな者達を受け入れているのだ。
パスカルたちも必然的に、異端認定されているが、具体的に何が異端であるのかはわかっていなかった。
それでも、自分を助けてくれた者達だから、信じていようと決めていた。
「私達、シェルターみたいな組織がいくつかあるみたいですね。帝国は、組織探しにやっきになっているみたいです」
「軍服を着た連中が顔を殺気立っているな」
「皆さん、安全に日々を過ごせればいいんですけどね」
少しは勉強しなければ。
そう思ったミレイは、色々と歴史を調べた。
機械神の加護を信じない人間は、人ではない。
この世界には、特にミレイがいる国には、そんな常識がはびこっているらしい。
人々は機械神を妄信し、従っていた。
それはいっそ狂気的なほどだ。
潜伏している異端組織が、仲間のふりをした味方に何度壊滅させられたか。
そのニュースをしった時は、なんとも言えない気分になる。
機械神が言うならば、彼らはどんな行動にも出るだろう。
どんな秘密だって、軽々しく口にするだろう。
それが例え、長年連れ添った友人に、刃を向けるような事でも。
広場に向かったミレイ達は、人々に囲まれている青年の姿を遠くから眺める。
青い髪の青年は、その場に集った多くの人達に笑みを向けていた。
一見すると、平和な光景だが。
「パスカル、ルルは」
「遠くから見てますけど、相変わらずです。巫女となったルルさんは、以前よりいっそう冷たくみえました」
ルル。
それは、かつてのミレイ達の仲間だった。
もはや過去系だ。
機械神の加護とやらで、ある日唐突に巫女にされて、シェルターを出ていったきり帰らなくなった。
そしてこのように、機械神の言葉を人々に告げている。
洗脳でもされてしまったかのようだ。
彼を元に戻したい、と考えているがどうすればよいのかミレイには分からなかった。
「前途多難だな」
「ですね。でも、それでもシェルターの活動は続けます。助けを求める人々がいるなら、私達はその手を掴みたい」
パスカルたちの信念は強い。
たとえ相手が強大であっても、彼女達の心が屈することはないのだろう。
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