ずっとあなたを利用していたし、見ていたから

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02  シェルターに帰ると、ロトという少女が待っていた。 「ん」と突き出された彼女に、買いだした荷物を分ける。 「調達あんがとさん」  分担して、手早く品物を分けていった。  当分の食料と生活品は手に入った。  これで、一週間は危険な外に出ずにすむだろう。  外に出ると気が休まらない。  いつどこで、通りをいきかう「一見無害な一般人」に背中をさされるか気が気ではなかった。 「ここのところ、消える人間が多すぎる。出て言ったきり、戻らない。もう何人消えたんだ?」 「三人だね。面倒を見る人間が少なくなって、助かる。なんて思ったりしないよ。ボク達、彼らの心の安寧に協力できたのかな」  機械神に歯向かった者達は、数週間でなぜか突然消えてしまう。  組織からふらっと離れて、忽然と。  例外はある。  消えない者はいつまでたっても消えないのだ。  だが、そうである者とそうでない者にある違いは分からない。  けれど、表に出ていたら数日で捕まってしまう。  シェルターは気休めだが、それでもわずかな救いになっているのだろうか。  そう思っていたい、が。  パスカルが口を開いた。  その言葉は、仲間を案じるものだ。 「大丈夫ですよ。今までの事は無駄なんかじゃありません。ロトさんの優しさは、きっと皆さんに届いてますから」 「だといいけどね」  肩をすくめるロト。  彼女はさっそく、購入した生活用品などをメンバーに配りにいった。  俺達は、彼等の消失を食い止めるための情報が何もない。  はがゆかった。  唯一といってよい手掛かりは、パスカルやロトなどの一部の人間が消えない事くらい。  ここで保護している人達より、ずっと長い間機械神に反抗している者達がなぜ消えないのか。  その理由さえ、分かれば。消失は食い止められるはず。  考え込んでいると、パスカルが声をかけてきた。 「あまり考え込んでいては疲れてしまいますよ。一休みです。お茶にしましょう」  そして、眉間にしわを寄せているところを、ゆびでついて笑う。 「暗い顔をしていたって、しょうがないですから」 「そうだな」  少しだけ、力が抜けた。  地下にある組織、シェルターの内部には、運動不足にならないようにちょっとした運動場がある。  陽の光も、風もない建物の中だ。じっとしているばかりでは心の病気にかかってしまう。  だから、思う存分体を動かせるように、と用意されていたのだった。  運動のための道具も、色々とあった。  パスカルはスフレと一緒に遊んでいるようだ。  同年代の少女だ。  彼女と一番仲の良い同性の人間。  スフレもこのシェルターを運営している人間。  古いメンバーの一人だ。 「行きますよ、パスカルさん」 「がってんしょーちです」  スフレにボールをなげてもらって、パスカルがそれをおいかけてる。  犬のようだった。  普段はしっかりしているのに、遊びとなると途端に子供っぽくなるのが不思議だった。  案外あれがパスカルの素なのかもしれない。  しばらく、ジョギングしながら体力作りをしていると、突然シェルターの明かりが落ちた。  そして、真っ赤な非常灯がともる。  血のような色が闇を染め上げている。  警報音も鳴り響いた。  すぐに、焦った様子のロトがやってきた。 「ここは放棄! 荷物をまとめて、逃げなくちゃ! 帝国の奴らがもうすぐここに!」  どうやら、敵に嗅ぎつけられたようだ。  俺達は、慌てて荷物をまとめて、シェルターを逃げ出さざるをえなかった。  いざという時のための、脱出経路はわる。  用意されていた。地下通路を駆けていた。  その最中、しんがりをまかされたのは、俺とロトだった。  俺達は並んで走る。  俺は護身術として銃のたしなみがあるし、ロトは体術が得意だ。  戦闘になっても、きりぬけられる可能性が高い。 「じゃあ、気を付けてくださいね」  パスカルがそう言って、人々の前に立って、先導役をかってでる。  俺は、その様を後ろで見守り、追ってくる人間がいないか警戒していた。  誰一人として死なせはしない。  そう決意しながら。  長い通路を走っていると、ロトが話しかけてきた。 「ねぇ、いつまで続くと思う? この生活」 「俺には分からない」 「だよね。新入りだし。でもだから、あんたがいなくなっても、他の人間のダメージが少なくすむ」  その瞬間俺は、ロトに顎をなぐられて、突き飛ばされた。  頭がぐらぐらして、すぐには起き上がれない。 「悪く思わないで、新入りと他のメンバーを天秤にかけただけ。生き残る確率が高い方を選んだだけ」  俺を置いて、ロトは駆け出していく。  つまり俺は、ライオンの前に差し出された餌というわけだ。  手寧に身動きを封じて。これだ。  仲間だと思っていたのは、ミレイだけだった。  背後から無数の足音が迫ってくる。  俺は今日、死ぬのだろうか?  裏切られた気持ちが胸を満たす。絶望の感情で頭がいっぱいになった。  ロトの事は仲間だと思っていた。  信じていたのに。
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