第一話 出会いそしていざ、行動!

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 茉莉の耳には、途中から何も届いてはいなかった。男は懸命に考察をして語ってくれているのだが、茉莉は自分の中の感情を制御するのに必死だった。さっきまでのように流れに任せてしまうと、涙が溢れ大声で叫んでしまいそうだ。  まだ、真実が判明したわけではない。抜け落ちていた記憶が戻ったわけではないのだ。  だがそれでも、安堵せずにはいられなかった。これまで思い描いていた、性癖をこじらせた小汚いおじさんが、茉莉の中で徐々に不思議な魔法使いのおじさん、に変わっていく。  後者も十分に危険ではありそうだが、茉莉は然程気にはならなかった。  魔法使いのおじさんの意図は分からない。だがしかし、あのおじさんが本物の魔法使いであって、自分を守るための魔法をかけてくれているとなると、あの時に自分が汚された可能性は、格段に低くなってくるのではないだろうか。  自分の純潔は、守られている。  女として、自分は。綺麗なままなんだ。 「あ、やばい。ねえ、ちょっとちょっと。さっきの、なんだっけ。あの光のやつ、もっかい使って。マジで泣き叫びそう」 「は? いや、なんでだよ。泣く要素がどこかにあったか? 情緒不安定すぎんだろ」 「女の子は情緒不安定なのがデフォルトだっての。イケメンのくせにそんなことも知らんのかよ。って、いいから早く!」 「嫌だよ、普通に疲れるし。魔法だってデメリットがないわけじゃねぇんだぞ。簡単なやつは疲れるだけだが、強大な魔法なんかはそれに応じた副作用があったりするからな」 「魔法のうんちくなんてどうでもいいっての。私は、貴方のためにも言ってんだよ」 「俺のため? どういうことだよ」 「ここで私が大声で泣き叫んだとして、その光景を見た人たちはどう思う? 人気のない体育館裏。無理矢理連れて来た男。そして、泣き叫ぶ女。小学校低学年レベルの問題だと思うけど?」  男は眉間に皺を寄せて、苛立ちを露わにした。大きくため息をついてから、一度茉莉を睨みつける。ひるんでくれれば儲けものだと思ったが、どうにも男の顔は常に仏頂面であるようで、睨んでみたとていまいち普段との差が分からない。一生懸命に威圧しているつもりでも、茉莉には到底効きそうになかった。  仕方がない。先程のホーリーライトの効果はまだ継続しているだろうが、更に上乗しないと、目前の女は本当に泣き叫ぶだろう。そうなる理由は全く分からないが、そうなってしまう気配は、うるうると濡れ始めた瞳を見ればなんとなく感じられた。 「はあ。ホーリーライト」 「…………ふう。超便利だね、その魔法」 「絶対、もう二度と使わないからな。俺は便利屋じゃないんだ」 「まあまあ、そう怒らないでよ。貴方のおかげで、過去のトラウマが大分軽くなった。ありがとう、イケメン先輩」 「その呼び方止めろ」 「名前、知らんし」 「創玄(そうげん)奏多(かなた)」 「ありがとう、創玄先輩」 「…………名字も、嫌いだから、呼ぶな」 「……我儘だね。あ、それとも、これが女の子との距離感を一気に縮める手段とか?  やり手はやっぱ違うね、か・な・た先輩」 「お前のことも嫌いになりそうだ。はあ、なんでこんな奴から魔力の波動を感じるんだよ。そうでもなきゃ、お前みたいな奴と関わる気なんてなかったのに」 「お前、って呼び方止めてくれない?」 「名前、知らねぇし」 「新堂(しんどう)茉莉(まり)。名字で呼ばれるの別に嫌いではないけど、名字で呼ばないでね」 「そんなの俺の勝手だろ、新堂」 「なんか、ずるくない?」 「うるせぇ。そんなことより、話の続きだ。そのおじさんって奴のこと、もっと詳しく教えろ」
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