0人が本棚に入れています
本棚に追加
「ただいまー」
「おかえり。寒かったでしょう」
建てつけの悪い引き戸を開けると、母が出迎えてくれた。あちこちほつれている花柄で臙脂色のエプロンが、以前よりぶかぶかしているように感じ、痩身の母が更に痩せて小さくみえた。母は凜の手を取り「こんな冷たくして」と言った。「お母さんのほう冷たいよ」と言いかけたがやめた。
「ほら、手洗ってご飯にしよう」
凜はクスッと笑い「小学生の時も言われたよ」というと、母は「懐かしいね」と笑った。リビングに向かうと、既に食事を用意してくれていた。いただきます、と箸を取る。暖かい豚汁を飲むと、喉より先に目頭が温まった。
「お母さんの料理、何年ぶりだろう」
「びっくりした。急に帰るって聞いて。大学は?」
「春休み」
「アルバイト先とかはいいの?」
「うん。来週には帰るから」
「そう?お友達にでも会いに来たの?」母は不思議そうに聞いた。
その質問に、凜の箸はピタリと止まった。
「うん、友達……かな」
母はふうんと、視線をテレビに移した。それ以上は突っ込まれなかった。
最初のコメントを投稿しよう!