港町インタールード

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「終点、久慈駅です。お忘れ物にご注意ください」  コツッっとブーツが音を立て、凜は故郷の地を踏む。三年ぶりだ。沿岸の風は冷たく、思わずくしゃみが出た。着ているチェスターコートのボタンを上まで留めないと、冷気が侵入してくる。この寒さ、懐かしい。高校を出てから先週までずっと眠らない街にいたせいだろうか、静けさに耳鳴りがした。  駅前に止まっているタクシーに声をかけ、荷物を積んで実家近くのスーパーの名前を告げる。 「観光かい」  年老いた男性運転手と、ミラー越しに目が合う。平日の夜間とあり無聊を託っていたのだろうか、目が眠そうに充血している。  凜は短く「ええ」と答え、会話を打ち切ろうとした。良心がチクリと痛むが、世間話は得意ではない。 「暇な街だろう」 「いえ、そんなこと……」  皺が深く刻まれた顔は表情を変えなかったが、声色に若干の物寂しさを感じた。それ以上会話は生まれず、若干の虚しさを抱いてタクシーを降りる。平屋建ての実家に安堵を覚えたときには、すでに午後九時を回っていた。
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