港町インタールード

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「ただいまー」 「おかえり。寒かったでしょう」  建てつけの悪い引き戸を開けると、母が出迎えてくれた。あちこちほつれている花柄で臙脂色のエプロンが、以前よりぶかぶかしているように感じ、痩身の母が更に痩せて小さくみえた。母は凜の手を取り「こんな冷たくして」と言った。「お母さんのほう冷たいよ」と言いかけたがやめた。 「ほら、手洗ってご飯にしよう」  凜はクスッと笑い「小学生の時も言われたよ」というと、母は「懐かしいね」と笑った。リビングに向かうと、既に食事を用意してくれていた。いただきます、と箸を取る。暖かい豚汁を飲むと、喉より先に目頭が温まった。 「お母さんの料理、何年ぶりだろう」 「びっくりした。急に帰るって聞いて。大学は?」 「春休み」 「アルバイト先とかはいいの?」 「うん。来週には帰るから」 「そう?お友達にでも会いに来たの?」母は不思議そうに聞いた。  その質問に、凜の箸はピタリと止まった。 「うん、友達……かな」    母はふうんと、視線をテレビに移した。それ以上は突っ込まれなかった。
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