14人が本棚に入れています
本棚に追加
村の外れまで走った。
この辺りは村田家と町田家という百姓家の土地だ。隣り合わせの両家は双方の田畑の中ほどに位置する古井戸の所有権を巡って、長きに渡って小競り合いを繰り広げている。双方の家が暇をもて余した村の若者らを駆り集め、しょっちゅう戦まがいのばか騒ぎをするものだから、歳三は身体がなまったときなどどちらかに加勢して気持ちのいい汗を流す。もちろん歳三や村の若い連中らが入り乱れて紛争したところで井戸の所有権がはっきりするわけでもなく、うやむやのままその日の喧嘩祭りが終わるのが落ちだ。
歳三は村田家と町田家の田畑を見渡せる丘に立ち、にやりと笑った。
しめた。
やっている、やっている。
体力を持て余した暇人らが木剣やら棒切れやらを手に手に集まって、二手に分かれてにらみ合いをしている。今回は双方あわせて三十人は集まっている。なかなかの人数だ。
歳三はにやにや笑いながら、頭の中で素早く算術を繰り広げた。
今回は人数が多いから、なかなか大掛かりな戦になるだろう。誰かが怪我をする率は、ふむふむ。三十人のうちの半分が打ち身の怪我をすれば、なるほど。こりゃいいや、石田散薬の売れ残りなど、あっという間にはけてしまうぜ。
歳三は前回は村田の側についている。だから今回は町田の側につこうと決めた。
「おーい。俺も混ぜろ。助太刀だ」
歳三はわくわくしながら、一気に丘を駆け降りた。
最初のコメントを投稿しよう!