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プロローグ。
佐藤太郎。彼には1つの楽しみがあった。
それは学校からの帰り道、いつもの通学路を逸れて、近くの神社で待っている女の子と会うことだ。
ジリジリと暑苦しい日差しを打ち付けられ、セミの鳴き声を無視しながら、太郎は神社の石階段を登り切る。
「ごめんっ、待ったっ…!?」
「ううん、大丈夫だよ。私はいくらでも太郎を待つから」
その女の子はセーラー服で、モデルのように整った容姿をしていた。中でも太郎はその妖しげな目に惹かれて、つい鼓動が速くなる。
「ねぇ太郎、ちょっとこっちに来てくれない?」
「っ!?ど、どうして…?」
「もっと側に来て欲しいから。太郎に触れたいから」
彼女に微笑まれれば、太郎はもう断れない。言われるがまま彼女の目の前に来ると、彼女は細い腕を太郎の首筋に掛け、顔を赤らめた。
「私ね…ずっと、太郎とこういう事がしたかったんだ…」
「そ…それって…」
(キスだよなっ!?ついにするのかっ!?ついに俺は、童貞を卒業してしまうのかっ!?)
太郎は彼女以上に赤面し、そして彼女は、顔を上げた。
「こういうこと」
そこにあったのは、巨大な口。涎の粘る牙の奥には、大きな舌が蠢いていた。
太郎は恐怖と動揺に支配され、その場から動けなくなってしまった。そこへと、カロンっ、という声が聞こえてくる。
彼女…いいや、化け物の野太い声が、「あ゛?」が聞こえた直後。
化け物の首が切断され、太郎の足元に転がった。
「うっうわあああああああああっ!!?ああぁぁぁぁぁ!!くっ首っ!首があぁぁっ!!」
あまりの衝撃で、太郎はその場に尻餅をつき、一目散に逃げて行った。
その後ろでは、化け物がボソボソと恨み言を呟き、それが怒号に変わる。
「なぜ…なぜだっ。なぁぁぜお前はぁぁぁぁっ!!!」
化け物が怒鳴っていた人物は、着物の少女。背丈は160センチに届かないほどで、黒い花柄の羽織りをまとっていた。
彼女は刀を収め、化け物に振り返る。
「仕事なんだよ、ごめんね」
束ねられた髪と、黒いお面の紐が揺れる。彼女が懐から取り出したのは煙管で、彼女はそれを使い、咳き込みながらも化け物を消滅させた。
"怪異"。それは人ならざる者の総称であり、彼女はそれを狩る一族。人ならざる彼らを狩ることを、この京都で生業としている。
彼女の素顔を知る者は、この世に誰1人とていない。
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