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服装については、何もつっこまれなかった。どうやら、特に気が付かなかったらしい。
そして彼はその眩しい表情のまま、私の手を取った。まるでそうすることが当たり前かのような、自然な動きだった。
自然すぎて、一瞬手を繋いだことにも気が付かなかったほどだ。
指を絡ませない、友達同士の繋ぎ方。中村の手のひらはわずかに湿っていて、藤田のかさかさとした肌とは正反対の感触だった。
誰といても、何につけても彼が出てきてしまうほど、私は藤田に侵食されている。
手を繋ぐなんて、もしかして中村は私のことが好きなのだろうか。いや、もしかしなくてもそうだろう。彼が、いわゆる“普通の男”だったなら。
しかし、彼は“変なイケメン”の中村だ。
私は彼が他の知り合いや友達といるのを見たことがないけれど、中村からしたら友達なら誰とでも手を繋ぐのが普通なのかもしれない。
そんな考えを浮かべてしまうくらい、中村は変なやつだった。なんたって、“般若さん”の私に話しかけてくるようなやつなのだから。
もしそうだったら、私ひとりがどきどきしているのも馬鹿らしい。
しかしいくら心臓を落ち着かせようとしても、私の脈は早いままだった。
日本人の割に青みがかった彼の肌は、彼の頬の色は、何ひとつとしていつもと変わらない。
中村は表情が豊かだけれど、どこかポーカーフェイスな感じもする。大体は表に出るけれど、芯の部分は見えない感じ。
彼の本心は今、どんな色をしているのだろう。
そのことが気になっている時点で、私も結構中村のことを気にしているらしい。
中村へと向かう、この感情はなんなのだろう。
藤田への気持ち。中村への気持ち。依存、恋、愛、友情、愛情。色々な感情が混ざり合って、わからなくなる。
頭がぐるぐると回ったまま、中村と話をする。彼は嬉しそうに私の話を聞いている。私も、中村の話を聞くのが楽しかった。
中村は、藤田みたいに私を不安にさせない。いつも優しくて、明るくて。私のことを気にかけてくれている。
中村と付き合うことができたら幸せになれるんだろうな、と私は思った。
それなのに。藤田のことなど考えたくないのに、私の中にはシャワーで流したはずの藤田の痕跡がべったりとこびりついている。
精液、汗、気持ち、その他もろもろが。
中村と話しているこの瞬間にも、藤田は私を捕らえて離してはくれなかった。
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