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痕跡
事を終えた私は、藤田の部屋を後にしようとドアノブに手をかけた。外からは、わずかに静かな雨音が聞こえてくる。
その時の藤田は、紺色のカーディガンに黒い細身のジーンズを履いていた。
そんな彼に、私は「またね」と言った。彼の返事はこうだった。
「お前、もういらないから。これからは来んな」
藤田は死んだ魚みたいな目をこちらに向けながら、面倒くさそうに言い放った。
――その時の私は、怒るでも泣くでも笑うでもなく、ただ呆然と
「私はもう死ぬんだな」
と思った。
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