白濁

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白濁

 それから私は、落ち着くまで中村のアパートで過ごした。そんなに綺麗じゃないけど、すえた匂いがするけど、不思議と居心地が良い。  台所の床は固いから、中村に借りた座布団じゃ薄くて尻が痛くなった。横になりたくて「布団貸して」って言ったら中村は「えっち」って笑っていた。  結局2人で、薄汚い布団に横になった。布団からは濃い中村の匂いがして、隣には本人がいてなんだか気恥ずかしかった。 「ぎゅってしてよ」  私は眠くなってきて、なんだか子供に戻ったみたいで甘えた声で中村を呼んだ。向こうを向いていた彼は振り返って、いいよと言ってくれた。  私はそれが嬉しくて「ありがと」と目を閉じた。大きくて薄い中村の体にすっぽり覆われる。  中村は体温が高くて子供みたいだ。状況的に子供なのは私の方なのだけれど。  なんだかもう、色々なことに。自分のこと、絵のこと、中村のこと。そして藤田のこと。自分でも抱え切れなくなってしまったことたちに私は疲れてしまった。  だから、年上なのにこんな甘ったれた状況になっていた。中村は不思議だ。私より5つも下なのに、なぜだか全てを受け入れてくれいるような感じがして、つい甘えてしまった。  こんな状況なのに、中村は手を出してこなかった。ちょっと股ぐらが膨れていたけれど、私は気が付かないふりをした。  しばらく中村の腕の中にいた私は、いつの間にか眠っていた。中村も眠っていた。  私の方が先に目を覚まして、緩んでいた中村の腕から顔を出して彼の寝顔を覗き込んだ。すやすやと眠っていて、その表情は年相応にあどけなかった。  それが可愛くて、私は中村の頭を優しく撫でた。やっぱり、まだ子供なんだなぁって思いながら。 「起きてたの?」  彼が薄目を開けてこちらを見ていたのに気がついた私は言った。  うん、と答える中村に「いつから起きてた?」と聞いたら彼は薄く笑って「わかんない」と言った。 「頭撫でてくれたのは、覚えてるよ」  狸寝入りしてたな、と思いながら私は再び彼の胸ぐらに潜った。私もほとんど胸はないけれど、中村の胸はそれ以上に平らで薄い。  私はとっくに化粧のはげている顔をそこに押し付けた。  中村の匂いが、私の肺いっぱいに満ちていく。落ち着くに匂いだ。遺伝子的に相性の良い人の体臭は、心地よく感じると以前何かで読んだことがあった。
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