116人が本棚に入れています
本棚に追加
電話
7月に入ったというのに、まだ梅雨は開けない。
今日、中村は日曜だというのにアルバイトに行っている。あいつは労働に励んでいて、私は今藤田の部屋にいる。
相変わらず藤田の部屋は何もない。必要最低限の家具と家電だけ。素っ気ないのは家主と同じだ。
久しぶりの連絡はたった一言「会いたい」だけ。
そんな一言で安心してしまうほどに私は軽い。胸に抱えた想いは抱えきれないほどに重く私を蝕んでいるのに。
低気圧で体が怠くても、彼との行為になんの意味がないとわかっていても、私は藤田の家へと向かった。
「久しぶり」
藤田は、少し痩せていた。元々ガリガリなのに、さらにガリガリになっていた。
短い玄関のフローリングにぺたりと張り付いた足は酷く筋が浮いていて、弦楽器みたいだ。
じゃらじゃらとした左耳のピアスが1個増えていたのに気がついた自分が気持ち悪いなと思った。
中村とセックスしてるのに、私は藤田ともセックスをする。そんな自分が軽薄で大嫌いだ。ふわふわ浮ついて、中村を傷つけて、それでもいいと彼は言った。
そんなことを言わせて、藤田の元へやって来てしまう自分は最低最悪だ。
「会いたかった」
しょうもない嘘をつく藤田のことが嫌いだ。嫌いで嫌いで嫌いで、その言葉を聞いた私の胸は勝手にときめいて下着を濡らす。
誰にでも同じことを言ってるって知っている、自分のファンと寝てる藤田はネットの掲示板で晒されていた。
口を開けて、裸で寝てる顔の写真まで晒されていて当然だと思って、けれどやっぱりちょっと胸が苦しくなって、私も藤田も馬鹿だと思った。
靴を脱ぐために屈んで、立ち上がったらすぐに頭を掴まれてそのまま乱暴にキスをされた。
私の気持ちとかムードだとかそんなものは一切無視で、藤田は私の胸を強い力で揉みしだく。
服越しに思い切り先端をつねられて私は声を漏らした。ひどく痛くて、とても気持ちがいい。
そういうふうに私の体はできている。どんなに手酷いことをされても相手が藤田だというだけで私の膣は激しく収縮して、ぐねぐねとうねる。
藤田の蛇みたいに先が割れた舌が口内に侵入してきた。
舌が絡んで、唾液が口の端を伝って黒い服の襟に染みる。
「あ。あ、あ……」
馬鹿みたいに声が出て腰が砕けた。
藤田はそのまま私の肩を掴んで、自分のものを私の口に捩じ込んだ。グチャ、グチャと粘性の液が音を立てて、私の唾液と藤田の先走りが混ざる音が玄関に響く。
喉の奥に藤田の先端が何度も叩きつけられて、私は嗚咽を漏らす。
「吐いたら殺す」
そういうくせに、藤田は容赦なく私に腰を打ちつけて、その度に私は汚く喘いでいた。
しばらく口内を犯されて、その後玄関で立ったままセックスをした。
藤田が私の中に入ってきて、後ろからレイプするみたいに激しく憎悪にも感じられるくらい乱暴に私の中を掻き回した。藤田の右手が私の頭を掴んで自分の方へ向けた。
「かわいい」
真っ直ぐに鋭い目を向ける藤田はそう言って唇を重ねた。さっきとは違うゆったりとしたキスと激しいピストン。
しばらくすると首が痛くなって来たから、名残惜しいけど再び壁の方を向いた。
「かわいい」
ーーそう言うと私の中が締まるから、藤田は何度も同じ言葉を耳元で囁いた。その度に子宮がきゅうきゅうと縮こまって、私は何回もイった。
「あー……イく。奥に出すから。孕めよ雌犬」
私の本能が、叫んだ。
「藤田が好きだ、好きだ好きだ好きだ。この人の子供が欲しい、私に彼を刻みつけて欲しい。ーー愛してる」
最後に中の藤田が大きく脈打って、内臓を潰すみたいに強く私を突き上げた。
そして、藤田の子種が私の子宮に注ぎ込まれるのを感じた。藤田は何度か中で大きく膨らんで、私の中から出ていった。
私はそのまま床にへたり込んだ。どろりとした濃い精液がぼたりと滴って床に落ちた。
その時、藤田の脱ぎ散らかしたズボンのポケットが震えて床を鳴らした。
ヴーっという細かな振動が何度も鳴った後、藤田はダルそうにスマートフォンを拾い上げて通話ボタンを押した。
「もしもし、藤田さん?」
若い、かわいい女の子の声だった。それだけなら私は大して落ち込みはしなかったのに。その声を聞いた瞬間に藤田の頬が緩んだ。
見たことのない、嬉しそうな藤田の表情。私の前では一度も見せなかった。
そのまま藤田は部屋に歩いていって、ベランダに出てしまった。後ろ姿しか見えないのに、頭の中にはさっきの嬉しそうな、愛おしそうな藤田の顔が張り付いて剥がれない。
すぐに分かった。
藤田は、この娘のことがーー
勝手に両目いっぱいに涙が溜まって、ボロボロと溢れ落ちていく。ああ、藤田には好きな人がいて、私はもう。
「いらなくなるんだね」
そう呟いたら,ますます涙が溢れて止まらなくなってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!