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痺れるような
青々と茂った木々が、隣の一軒家の庭から伸びている。あまり手入れはされていないらしく、枝葉は自由奔放に伸びまくっていた。
私の家と同じK県にある、Tハイツ104号室。そこに、藤田は住んでいる。
辺り一体は人通りもほとんどなく、車がたまに通るくらいで人気がない。
女ひとりで歩くには少し怖いけれど、藤田が私を迎えに来たことはこの3年間で数回しかなかった。
虫が集っている街灯の下を通って、彼の家のドアを数回ノックした。チャイムが壊れているから、直接ドアを叩いて鍵を開けてもらうしかないのだ。
「よく来たね」
私の不機嫌そうな顔を見た彼は、いつもの乱暴な口調からは想像できないほどに優しい声音で私を迎え入れた。
そして静かにドアを閉めると、彼はまるで愛しい恋人を扱うかのように私を抱きしめた。私の頭を撫でる彼の節張った手が、枯れ枝みたいに長く伸びた指が私の頭を撫でた。
冷たい彼の手は、あたたかかった。
その体温を感じて私は、昔誰かが言っていた「心の冷たい人ほど手はあたたかいんだよ」という言葉を思い出していた。
彼の家のテーブルは、小さい。一人暮らしだからなのだろうか。お皿をいくつか並べたら卓上はいっぱいになってしまう。
「よかったら食べて」
ベッドの横に置かれた木製テーブルの上には、白い皿に盛られたフレンチトーストが置いてあった。
私は彼が気まぐれで作ってくれる、でろでろに甘いフレンチトーストが好きだ。
促されるままベッドに座り、フレンチトーストをナイフで切って口に運んだ。たっぷりかけられた蜂蜜が喉を通って、胃へと落ちていく。焼けるように甘かった。
ふたくち目を口に入れた時に、もし彼に私への愛があったなら。そうしたら、このくらい甘く私を蕩してくれたのだろうか。
とありもしない彼の空想をして、ひとり虚しくなってしまった。
全て食べ終えた私は、食器を置いてそのままベッドに倒れ込んだ。
今夜も私は、藤田に抱かれる。
藤田への想いで生まれる寂しさ、うまくいかない現実への苛立ちを彼とのセックスで癒すのだ。
彼に抱かれることで、その寂しさはより強固なものになるのだけれども。
彼はしばらく私の隣でテレビを眺めていた。私もそれを眺めていた。つまらない、ありきたりな恋愛ドラマだった。
「美咲」
彼がテレビを止めて、私に覆い被さった。彼の唇が私の唇に触れた。舌が口内に侵入して、私を貪った。
藤田の二股に分かれた舌が、私の舌をチロチロと器用に刺激する。2人の唾液が混ざり合って、口の端から一筋の涙が流れた。
その時点で、すでに私はぐちょぐちょだった。
その日の藤田は、いつも以上に身勝手で乱暴で、サディスティックだった。
私の内臓を壊そうとしているかのような、バックからの激しいピストンに私は叫びとも嬌声ともつかない声を上げた。
「うるせぇよ」
彼は固くいきりたったものを引き抜いて、枕カバーにしているフェイスタオルに手を伸ばした。
「黙ってろ」
タオルが、私の口に押し込まれる。ガサガサとした安物のタオルが、私の喉に蓋をした。
そのまま私は仰向けに転がされた。藤田の、熱っぽい獣みたいな目が私をまっすぐに捉えて離さなかった。
こんなふうに、私を酷く扱う時の彼が好きだ。
こういう時の彼は、私を犯す以外に何も考えられない、といった視線を私に寄越す。
――藤田は今この瞬間、私のことだけを考えている。
その事実に私の体は歓喜し、蜜口からぐずぐずと涎を垂らす。その快感は、愛されることにも似たものだった。
「うぐ、ぐ……ぅ」
私の情けない呻き声に、彼は中で数回脈打った。そして私の上で腰を振っている藤田の右手が、私の首に噛みついた。彼の力強い指が、私の喉に食い込んでいく。
私の生きることを、藤田が握っている。
そのことにより、私の脳内には痺れるような快感が駆け巡った。
呼吸のできない苦しさの中で私は絶頂した。
視界がだんだんと狭く、暗くなっていく。藤田と繋がっているという幸福の下、私は気を失った。
ーー私の中に、彼の生あたたかい子種が注ぎ込まれていくのを感じながら。
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