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未来予知に困らせられることは多々あった。興味をそそられた対象。又はランダムに選ばれた出来事の集合体を見せてくれる。子供の頃は素晴らしく役に立ったこともあったが、年齢を重ねるにつれ、デメリットの方が多いことに気付いた。ほとんど見るのは数十秒程度の未来であるが、それだけでも体力が削られる。ごく偶に長い先の未来を見るが、その後は長距離マラソンを限界まで走らされたのと同等な苦痛が待っている。それでも、この力と向かい合ってうまく乗りこなそうとしていた。しかし、まさか僕の人生の根幹を揺るがせるものを見せるとは。こんなことは経験したことがなかった。
「大丈夫ですか?顔が真っ青ですけれど」
彼女は心配そうな顔でこちらを覗きこんでくる。
「はい、この暑さにやられましたかね」
僕はごまかしつつ、再度彼女を観察する。ナチュラルな服装で手さげカバンを肩にかけている。身長は僕より低く、後ろ髪を三つ編みにしている。その後ろ髪に、はやりのファッションなのか変な所に青いボタンの花がくっついていた。
「どこかで休まれた方がよいのではないですか?丁度向こうに日陰がありますので」
「はい、そうします。ご迷惑をおかけしてどうもすみません」
僕はそそくさとその場を去ろうと自転車を押す。彼女が僕の未来の花嫁なのだろうか。僕は恐ろしくなった。彼女に恐怖しているのではない。まるで、すべて決まりごとであるかの如くそれを見せられたことに、抗いようのない何かを感じた。それが怖かった。どこかで読んだ決定論の話を思い出す。あらゆる出来事はすでに決まっており、人間の自由意志など存在しないという考え方。しかしこれには、矛盾があるそうで結局の所、確かな事は分からないと書いてあった。それを読み僕は多少なりとも安心に浸っていたのだが今まさに冷や水を浴びせられたのだ。だから一刻も早くこの場から逃げようとしている。怖いものから目を背ける為に。ふと、足を止めて振り返ってみる。彼女は視線を下にして懸命に辺りを見渡している。その動作からすると何か落とし物を探しているのだろう。その瞬間、僕に罪悪感が生まれる。転んだ時に手を貸してもらい、尚且つ気を遣ってもらったのに、僕はこのまま彼女を見捨てるのか?本当にそれでいいのだろうか。これからの人生に胸を張って生きていけるか?これも最初から決まった事だったのかもしれない。それでも、僕は彼女を助けずにはいられなかった。
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