栞の在り処

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 図らずとも、意図した結果になる事がある。虫の知らせというか、未来予知に似たもので、雨が来そうだと思えば必ず降るし、誰かが危害を加えようと企んでいるなと思えば大抵は当たっており、なんとなしに避けることも出来る。ギャンブルで大金を稼げそうに感じたなら、きっと大金が舞い込んでくるに違いない。何とも便利だと思われるかもしれない。ただ、こうした能力は厄介なもので制御することが出来ない。自分の望む望まないに限らず突然、頭の中に情景が浮かび結果として現実に影響してくる。最近では常にアンテナが張っている状態で、頻繁に見えてしまう。この間も僕の人生の揺るがせる非常に悩ましい出来事が思い浮かんだ。それと共に妙な謎が絡んでややこしいことになり、益々、僕の胃を痛めつけることになる。あれは猛暑の続いた8月の頃、世間では連休が終わりに近づき、哀愁が漂う中旬のことだった。  仕切りに続くだらしない呼吸音を整えて自転車を走らせる。重いペダルを前に沈ませ、チェーンを動かし、ギアを回転させる。随分と使い込んだ自転車はいつ壊れてもおかしくない。右のブレーキはもう利かなくなっているし、緑黄色のペンキも剥がれ、みすぼらしい体裁であった。そろそろ新しいものを手に入れたいが、体力的な問題と僅かばかりの愛着から、だましだまし使い続けている。僕の悪い癖であるが、今のところは事故もない。せめてキックスタンドが取れるまでは愛用したいと思っている。坂道に入ると自転車から降り、押して歩く。このまま乗った方が効率的ではあるが、左側面に流れる川に転げ落ちたくはない。焦って無茶をしすぎないない方が失敗しなくて済むのだ。  坂道を上り終えるといつもと変わり映えのない広々とした空間に出る。左手には道路橋。右手には豪勢な住宅街が並んでいる。信号機の前で一時停止し、車が通りすぎるのを待つ。目的地まではもう暫く掛かる。今回出かけたのは、図書館で勉強しようと考えてのことだった。邪な理由を言えば家にクーラーがない僕は我慢できずに涼みに行くのだ。勉強はおまけみたいなものなので、すぐに飽きるだろうなとこの時点で悟っている。まあ、結果としてやらないよりはましなので、この行動も無駄にはならないだろう。信号が変わり、自転車に飛び乗ろうとしたところで、少し前方に下を向きながらゆっくり歩行する人の姿が見えた。道幅が狭いこともあり、このまま避けて通ろうとすればぶつかるかもしれない。仕方なく、足早に自転車を押して横を抜けた瞬間であった。  いつもの嫌な感覚が働いた。予知が来る。じっとりとした冷や汗が背中を伝う。それなりに経験してきたが、いまだにこの感覚は慣れない。せめてましなものであってほしい。そう願い脳内を覗いてみると、僕は愕然とした。それは知らない結婚式場。タキシード姿の僕は存じ上げない女性のベールを上げて幸せそうに笑い合っていた。その後、どんどんと記憶が薄れていき、遂に見えなくなった。開いた口が塞がらないとはこのことである。僕はすっかり動転してしまい道の窪みにつま先を取られ、転倒してしまった。 「あの、大丈夫ですか」 手を差し伸べられ、我に返る。痴態を見られた恥ずかしさと先程の驚きで脳が混乱する。落ち着きを取り戻すため僕は取り繕った笑顔を向ける。 「すいません、ぼんやりしていて」 手を遠慮がちに掴み、感謝の言葉を述べようとした口が、その場で止まる。 三つ編みにした髪に丸眼鏡の似合う女性。それは、結婚式でウエディングドレスを着ていた本人と瓜二つであった。
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