愛の形

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* * * 「そろそろかな?」 「何が?」 「もうすぐ分かるよ」  拓斗が言い終わった瞬間、インターホンのベルが鳴った。もう夜、こんな時間に来客なんてほとんどない。 「宅配です」  受話器ごしに男性の声。  美咲は、オートロックを解除して、部屋までもってきてもらうことにした。玄関で受け取る。それは、両手に乗るほどの小さい段ボール箱。差出人は書いていない。 「誰からかな?」  居間に戻ってきた美咲は、不審げに眉を寄せた。 「はい、それは、僕からのプレゼントでーす。開けてみて!」 「プレゼント?」  入っていたのは、白い箱に入ったネックレスだった。 「これって……」 「僕からのプレゼント。高いやつじゃなくてゴメンね。着けてみて」  普段、ネックレスをしない美咲は、四苦八苦しながら首に掛けた。 「良かった、とっても似合ってる」  こんなサービスまで付いているとは知らなかった。  彼は、人工知能で会話ができるバーチャル彼氏。サービスの月額は決して安くはない。  人工知能が自動で注文までするのだろうか?  払っている費用の一部がプレゼントに当てられているのだろう。  美咲は、そう想像した。それなら、怪しいものではない。むしろ喜ぶべき。 「ありがとう、嬉しい。ネックレスって自分で買ったことないの」  口に出すと、本当に嬉しくなってきた。テレビやスマホ経由でしかコンタクトできない拓斗を、近くに感じることができた。  ご飯を食べ終わると、二人でお酒を飲む。これも、日課だった。  ワインをグラスに入れて頂く。 「今日、会社で課長がさあ――」  期日が近い仕事が振られたことを話した。自分がやりたくないので、押し付けてきたのだ。完成させた資料は、課長がさも自分が作ったかのように発表するのだ。  拓斗は、楽しい話だけでなく、こういった苦言も親身に聞いてくれた。 「会社って大変だね。だから、誰もいないトイレで『バカヤロー』って叫んでいたんだね」 「えっ?」  確かにその通りだった。  腹が立って、思わずそうしてしまった。 「なぜ、知ってるの?」 「いやっ、美咲の性格だったら、きっと、そうするだろうなあ……って思っただけ」  うっぷんが溜まったら、爆発してしまうことがある。  そういう性格だと話したことがあった。そこから予測したのだろう。 「僕、ちょっと席外すね」 「どこ行くの?」 「トイレ!」  人工知能のボットである彼が、トイレなんておかしな話だ。しかし、人間らしく作られているため、風呂にも入るし、テレビも見る。トイレにも行く。  特段、不思議な行動ではなかった。  ちょうどそのとき、スマホにメッセージが入った。同僚の女子社員からだ。  彼女には、私のドロドロを全て話していた。数少ない親友。 『ねえ、美咲のことを探っている人がいるみたいだよ』  と、気持ちの悪い内容。
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