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「そろそろかな?」
「何が?」
「もうすぐ分かるよ」
拓斗が言い終わった瞬間、インターホンのベルが鳴った。もう夜、こんな時間に来客なんてほとんどない。
「宅配です」
受話器ごしに男性の声。
美咲は、オートロックを解除して、部屋までもってきてもらうことにした。玄関で受け取る。それは、両手に乗るほどの小さい段ボール箱。差出人は書いていない。
「誰からかな?」
居間に戻ってきた美咲は、不審げに眉を寄せた。
「はい、それは、僕からのプレゼントでーす。開けてみて!」
「プレゼント?」
入っていたのは、白い箱に入ったネックレスだった。
「これって……」
「僕からのプレゼント。高いやつじゃなくてゴメンね。着けてみて」
普段、ネックレスをしない美咲は、四苦八苦しながら首に掛けた。
「良かった、とっても似合ってる」
こんなサービスまで付いているとは知らなかった。
彼は、人工知能で会話ができるバーチャル彼氏。サービスの月額は決して安くはない。
人工知能が自動で注文までするのだろうか?
払っている費用の一部がプレゼントに当てられているのだろう。
美咲は、そう想像した。それなら、怪しいものではない。むしろ喜ぶべき。
「ありがとう、嬉しい。ネックレスって自分で買ったことないの」
口に出すと、本当に嬉しくなってきた。テレビやスマホ経由でしかコンタクトできない拓斗を、近くに感じることができた。
ご飯を食べ終わると、二人でお酒を飲む。これも、日課だった。
ワインをグラスに入れて頂く。
「今日、会社で課長がさあ――」
期日が近い仕事が振られたことを話した。自分がやりたくないので、押し付けてきたのだ。完成させた資料は、課長がさも自分が作ったかのように発表するのだ。
拓斗は、楽しい話だけでなく、こういった苦言も親身に聞いてくれた。
「会社って大変だね。だから、誰もいないトイレで『バカヤロー』って叫んでいたんだね」
「えっ?」
確かにその通りだった。
腹が立って、思わずそうしてしまった。
「なぜ、知ってるの?」
「いやっ、美咲の性格だったら、きっと、そうするだろうなあ……って思っただけ」
うっぷんが溜まったら、爆発してしまうことがある。
そういう性格だと話したことがあった。そこから予測したのだろう。
「僕、ちょっと席外すね」
「どこ行くの?」
「トイレ!」
人工知能のボットである彼が、トイレなんておかしな話だ。しかし、人間らしく作られているため、風呂にも入るし、テレビも見る。トイレにも行く。
特段、不思議な行動ではなかった。
ちょうどそのとき、スマホにメッセージが入った。同僚の女子社員からだ。
彼女には、私のドロドロを全て話していた。数少ない親友。
『ねえ、美咲のことを探っている人がいるみたいだよ』
と、気持ちの悪い内容。
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