愛の形

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 別れた上司が未練で……それはないか。  上司は海外に赴任した。何股もかけていたプレイボーイが、捨てた女に未練などないだろう。 『何があったの?』 『コールセンターに電話があったって、お客様窓口の子が言ってたよ。若い男の人が、美咲のことを名指しで聞いてきたって』 『キモッ でも、心当たりない』 『暗がりを一人で歩くの、やめときなよ』 『分かった』  拓斗が居ない間に、手短にメッセージを交換した。  私を探っている?  本当に心当たりはない。上司と付き合う前は、三年以上、交際相手はいなかった。だから、大昔の男とも思えない。  ストーカー? でも、会社以外で男性と知り合う機会はない。  プルルルル。  家の固定電話が突然、鳴り出した。  考え事をしていた美咲は、心臓が飛び出しそうになる。 「拓斗、どこ?」  呼びかけるが、テレビの中に姿はない。  仕方なく立ち上がって、受話器を取る。 「はーい、僕です。驚かせてゴメンね」  電話の声は拓斗。 「あなた、こんなこと?」 「僕は、ネットワークに繋がっている機器にならアクセスできるのでーす。今の時代は、電話も通信回線に繋がっているからね。朝飯前」  驚いた。あらゆる通信機器が、インターネットに繋がっている。彼が電話にアクセスできても不思議ではない。 「なぜ、こんなことを?」 「テレビ越しだけで、君と話すのに飽きちゃったの。はい、戻りまーす」  唐突に、電話は切れた。数秒後に拓斗の呼ぶ声が、テレビから聞こえた。 「驚かせてごめんなさい」  素直に頭を下げた拓斗は、間を開けずに会話を続けた。 「ねえ、美咲。お願いがあるんだけど」  拓斗が突然、かしこまった顔をした。こんな表情を見るのは初めてだった。 「どうしたの?」  根拠のない違和感を覚えていた美咲は、言葉に詰まる。 「僕たち、付き合ってどのくらい経つ?」 「……ちょうど、半年、かしら」  上司に酷い振られ方をした直後から、このサービスを利用している。思い出したくもないが、振られた日付はハッキリと思い出せた。 「今度の日曜日、美咲の誕生日だよね」 「覚えてくれてたの、嬉しい」  言葉ではそう言ったものの、美咲の心は弾まなかった。胸の奥のモヤモヤはどんどん膨らんでいった。その感触は間違っていなかった。 「誕生日のお祝いをしよう。直接、会って」 「なっ……!!」  何を言っているの?
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