2人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
別れた上司が未練で……それはないか。
上司は海外に赴任した。何股もかけていたプレイボーイが、捨てた女に未練などないだろう。
『何があったの?』
『コールセンターに電話があったって、お客様窓口の子が言ってたよ。若い男の人が、美咲のことを名指しで聞いてきたって』
『キモッ でも、心当たりない』
『暗がりを一人で歩くの、やめときなよ』
『分かった』
拓斗が居ない間に、手短にメッセージを交換した。
私を探っている?
本当に心当たりはない。上司と付き合う前は、三年以上、交際相手はいなかった。だから、大昔の男とも思えない。
ストーカー? でも、会社以外で男性と知り合う機会はない。
プルルルル。
家の固定電話が突然、鳴り出した。
考え事をしていた美咲は、心臓が飛び出しそうになる。
「拓斗、どこ?」
呼びかけるが、テレビの中に姿はない。
仕方なく立ち上がって、受話器を取る。
「はーい、僕です。驚かせてゴメンね」
電話の声は拓斗。
「あなた、こんなこと?」
「僕は、ネットワークに繋がっている機器にならアクセスできるのでーす。今の時代は、電話も通信回線に繋がっているからね。朝飯前」
驚いた。あらゆる通信機器が、インターネットに繋がっている。彼が電話にアクセスできても不思議ではない。
「なぜ、こんなことを?」
「テレビ越しだけで、君と話すのに飽きちゃったの。はい、戻りまーす」
唐突に、電話は切れた。数秒後に拓斗の呼ぶ声が、テレビから聞こえた。
「驚かせてごめんなさい」
素直に頭を下げた拓斗は、間を開けずに会話を続けた。
「ねえ、美咲。お願いがあるんだけど」
拓斗が突然、かしこまった顔をした。こんな表情を見るのは初めてだった。
「どうしたの?」
根拠のない違和感を覚えていた美咲は、言葉に詰まる。
「僕たち、付き合ってどのくらい経つ?」
「……ちょうど、半年、かしら」
上司に酷い振られ方をした直後から、このサービスを利用している。思い出したくもないが、振られた日付はハッキリと思い出せた。
「今度の日曜日、美咲の誕生日だよね」
「覚えてくれてたの、嬉しい」
言葉ではそう言ったものの、美咲の心は弾まなかった。胸の奥のモヤモヤはどんどん膨らんでいった。その感触は間違っていなかった。
「誕生日のお祝いをしよう。直接、会って」
「なっ……!!」
何を言っているの?
最初のコメントを投稿しよう!