2人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
直接、会う? それなら、今まさにやっていることではないか。いや、そういう意味ではない。リアルな世界で会いたい、そういうことだ。
美咲の心臓はバクバクと打ち始め、息が荒くなっていく。悟られないように、意図的にゆっくりと呼吸する。
「会うって、もう、会ってるじゃない」
「駅前の喫茶店。あそこで待ち合せをしよう。君が会社帰りにいつも寄る所。僕も一度、行ってみたかったんだ~」
なぜ、それを知っているの! スマホアプリでも彼と話すことはできる。しかし、それはアプリを立ち上げているときだけだ。
やっぱり、私のことを監視してた? 会社に電話したのも、もしかして。
これまでの違和感が確信に変わった。
会社での出来事を知っていたのも同じ。スマホ経由で観察してたんだ。いや、人工知能はどんな機器にもアクセスできる。
監視カメラを乗っ取って、見ていたのかもしれない。
想像すると足が震え出した。
膝の上で右手もブルブルと震え始める。それがバレないように左手で押さえこんだ。
ネットワークにつながる機器は、そこら中にある。その全てを使って観察されている。
「う、うん。ちょっと、考えさせてもらっていい? 私、シャワー浴びてくる」
「えー、まだ話の途中~」
拗ねた声を出す拓斗に返答することなく、美咲は立ち上がり、ドアを開けて廊下へ飛び出した。
両手にスマートフォンを抱えたまま、バスルームへ続くドアを開けた。
中に入り鍵を内側から掛けた。この行為に意味があるのか分からなかったが、無意識にそうしていた。
周囲にネットワークにつながる機器はない。スマホで検索する。『愛AIサービス サポート窓口』
検索で出てきた電話番号に電話を掛ける。
「はい、愛AIコーポレーション、サービス窓口です」
軽快な若い女性の声がした。機械応答ではなさそうだ。
ほっとした美咲は直ぐに要件を伝えた。
「アカウントを削除したいのですが?」
「えっ、ええ……。お気に召さない点でもございましたか?」
「ともかく、削除したいんです!」
外に響かない程度の大声で告げた。
「そうですか。育成した彼氏のデータは、全て消去となります。ご了承ください」
最初のコメントを投稿しよう!