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 どのくらい時間が経ったろう。  押せなかった。  あたしは、どうしても、どうしても、そのスイッチを押せなかった。 「ねえ、ロキ、あたし、どうしたらいい?」  あたしの腕を振り払うことなく、ロキが言う。 『あなたが決めてください、ララ。私には答えられません』  その言葉で気がついた。  あたし、ずっとロキに頼りっぱなしだったんだ。自分で判断してなかった。これじゃ、あたしのほうが、ロボットみたいじゃん。  ロキが、あたしの体を離した。  あたしはロキの首の後ろに手をかけたまま、くすっと笑って、言う。 「ねえ、ほんとのこと言っていい?」 『どうぞ』 「怒らない?」 『……はい』  フリですか、といわんばかりに、ロキが笑った。  あたしも笑った。 ──これで本当に怒られなかったら、ロキを選ぼう。  唐突に、そんな気持ちが湧いた。  すげー気軽な決定だけど、理屈じゃないんだ。もう、勘だ、勘。  何が正しいかはよくわかんない。  でも、あたしの直感の示すほうが、あたしの正解なのだ。 「追跡者としてほめられるのって、実は、そんなに好きじゃなかったんだよね」 『なゼ?』 「だって、相手逃げてるんだよ? 理由があるじゃん。無理に連れ戻すの、嫌だった。だから訓練所でもビリだったのかなー?」 『コメントはさしひかえさセてイタダキマス』 「んだよもー! ほら、いくよ!」  あたしは、スイッチから手を離した。  ロキの体をばんばん叩く。ロキが不思議そうな顔になった。 『どこへ?』 「その体、ミアに返してあげなきゃ。別のプラントで、いろいろ準備を整える。あたし、追跡者なので。こういうの詳しいのですよ。あ、てか、ミアは? 勝手にやっちゃって良いのかな?」  しばらく黙ったロキが、ゆっくりと口をひらいた。 『はい。サンニンで旅しましょう、と』 「じゃ、なおさらだ!」  あたしはロキの持っていた眼帯をぱっと奪った。  そのままつけようとして、やめる。歩きながら、腕をぶん、と振る。眼帯を真上に投げてキャッチする。 「今の、片眼でできるってすごくない?」 「オゥっ、よくも懐かしのマイボディーを!」  続けて何かを言おうとしたロキが、はた、と黙った。  なんだよー、とにやにやしながら、ロキの顔をのぞきこむ。  ロキが笑っていた。  よくわかんないけれど、幸せそうな笑顔だった。 【おわり】
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