12人が本棚に入れています
本棚に追加
どのくらい時間が経ったろう。
押せなかった。
あたしは、どうしても、どうしても、そのスイッチを押せなかった。
「ねえ、ロキ、あたし、どうしたらいい?」
あたしの腕を振り払うことなく、ロキが言う。
『あなたが決めてください、ララ。私には答えられません』
その言葉で気がついた。
あたし、ずっとロキに頼りっぱなしだったんだ。自分で判断してなかった。これじゃ、あたしのほうが、ロボットみたいじゃん。
ロキが、あたしの体を離した。
あたしはロキの首の後ろに手をかけたまま、くすっと笑って、言う。
「ねえ、ほんとのこと言っていい?」
『どうぞ』
「怒らない?」
『……はい』
フリですか、といわんばかりに、ロキが笑った。
あたしも笑った。
──これで本当に怒られなかったら、ロキを選ぼう。
唐突に、そんな気持ちが湧いた。
すげー気軽な決定だけど、理屈じゃないんだ。もう、勘だ、勘。
何が正しいかはよくわかんない。
でも、あたしの直感の示すほうが、あたしの正解なのだ。
「追跡者としてほめられるのって、実は、そんなに好きじゃなかったんだよね」
『なゼ?』
「だって、相手逃げてるんだよ? 理由があるじゃん。無理に連れ戻すの、嫌だった。だから訓練所でもビリだったのかなー?」
『コメントはさしひかえさセてイタダキマス』
「んだよもー! ほら、いくよ!」
あたしは、スイッチから手を離した。
ロキの体をばんばん叩く。ロキが不思議そうな顔になった。
『どこへ?』
「その体、ミアに返してあげなきゃ。別のプラントで、いろいろ準備を整える。あたし、追跡者なので。こういうの詳しいのですよ。あ、てか、ミアは? 勝手にやっちゃって良いのかな?」
しばらく黙ったロキが、ゆっくりと口をひらいた。
『はい。サンニンで旅しましょう、と』
「じゃ、なおさらだ!」
あたしはロキの持っていた眼帯をぱっと奪った。
そのままつけようとして、やめる。歩きながら、腕をぶん、と振る。眼帯を真上に投げてキャッチする。
「今の、片眼でできるってすごくない?」
「オゥっ、よくも懐かしのマイボディーを!」
続けて何かを言おうとしたロキが、はた、と黙った。
なんだよー、とにやにやしながら、ロキの顔をのぞきこむ。
ロキが笑っていた。
よくわかんないけれど、幸せそうな笑顔だった。
【おわり】
最初のコメントを投稿しよう!