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深夜、かつての自室で1人うずくまっていた。
柔らかいベットの上は私の体重で少し地面に近くなる。
カーテンの隙間から溢れる月明かりが私の肉体を途切れ途切れに照らし、揺れるあかりは水面に注ぐライトに見えた。
肌を透かし、臓器を顕にさせそうな月の光の先で小さく膝を抱える。
食後、久しぶりの自分の部屋は思ったよりも綺麗だった。
床に落ちていない埃は母が掃除機をかけてくれている証拠だった。
枕元にある目覚まし付きデジダル時計には2時12分と表示されていて、それは一分の狂いもなかった。
Miku☆の配信を見ようか悩んだが、今日は見ないことにする。
今の私にあの声は優しすぎる。
時に優しさは酸素も光も届かない、真っ暗な沼の底へと私を誘う。
そこはきっと暖かく、母の子宮を連想させる安心感があり、居心地がいい。
しかし、そこに沈んでしまうと二度と上がって来れない気がするのだ。
沈むことは何よりも楽だろう。
だけど、私は「死」よりもそれを恐れていた。
きっと沈むということはこの世界からはみ出すとうことだから。
ベッドの向かいにある本棚の一部が月明かりを反射し、きらりと光った。
ゆっくりと手を伸ばし、ツルッとした透明カバーに包まれている黄色いアルバムを手に取る。
遡る過去の中には輝くユカと、平凡な私がいた。
1ページ、1ページ。
赤ちゃんを撫でるかのように、優しく、温かく、あの頃に触れる。
私の小学校卒業式の写真が出てきた。
着飾った私の横には、いつも通りの服装のユカが左手でピースを作り立っている。
胸には薔薇をさし、綺麗な花でできた大きな髪飾りをつけている私なんかよりも、やはり、ユカは美しかった。
泣いているのか、泣いていないのか。
自分でも判断がつかなく、とりあえず、私は鼻を啜った。
アルバムから窓の外へ視線を移すと綺麗な満月がぷかぷかと夜空に浮いている。
なるべく音を立てないように、ゆっくりとカーテンを開け、真っ黒なキャンパスの上に黄色い絵の具を1滴垂らしたような光景を真っ直ぐと見つめる。
星は1つも見えなかった。
間違いなく夜空にあるのに、それなのに、その微々たる光を私の目は拾えない。
「結局、星、見に行かんかったな」
それは口からではなく、思い出から零れた言葉だった。
小さな部屋の中にゆっくりと溶けだすその言葉が私の意識をあの日へと引き戻していく。
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