朝を抱いて夜を泳ぐ

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奈良県のキャンプ場は本当に素敵な場所だった。 昼間、私とユカは両親の優しい瞳の中で透明な川に溶けるように飛び込んだ。 ユカが手のひらに溜めた水を私にかけると、私は家から持ってきていた水鉄砲で対抗する。 「大人気ないよ、お姉ちゃん」 そう言いながら笑い、撃たれたフリをするユカの視線の先には幸せそうな私がいた。 燃えるように熱い太陽の下で、日に照らさらるユカの顔は贔屓目なしに見ても美しくかった。 くっきりとした二重に、シュッと高い鼻。 見るからに柔らかいほっぺたに、嘘のように赤い唇。 透明に近いくらいの白さに、キリッとした眉。 小学三年生の彼女は恐ろしい程に美人で、それはもちろん、18歳になった彼女が棺桶の中で手を合わせるその瞬間まで変わることはなかった。 「ユカ、鮎の塩焼きできたで、食べにおいで!理子も!」 母に呼ばれて私とユカは水を蹴り、一斉に駆け出す。 この時期の2歳の差は大きくて、私が両親の元へたどり着いた時、ユカはモタモタと川辺を走っていた。 「そんなに慌てなくてもちゃんとあるから」 父は微笑み、串に刺さったこんがりと焼けた鮎を私に手渡す。 口から串を差し込まれた鮎はあまりにも無力で、少しだけ同情した。 遅れて辿り着いたユカに 「はい、楽しみにしてたでしょ!」 と母が言い、大切そうに両手でユカへと渡した。 私はユカが食べる前に、素早く自分の持ってる鮎を口に詰め込みそれから、 「うーん、あんまり美味しくない」と言った。 「なんで、美味しいやん」 母は笑いながらいい、その直後に 「美味しい!」と言ったユカに 「だよねぇ」 と濡れている頭をゆっくりと撫でた。 私の中にある悪い言葉を私はグッと抑え込む。 「まぁ、好みやからな!理子は焼肉食べるか?」 父の提案は断った。 そんなことより早く川に飛び込みたかった。 言葉に出来ない感情全てを抱えて、川の一部になりたかった。 流れの一部になりたかったのだ。 手に持っていた鮎を父に渡し、川を目掛けて一直線に駆け出す。 「お姉ちゃん待ってや!」 後ろから、「ユカ、慌てなくていいの」と言う母の声が聞こえ、父の「気をつけてな!」という警告を背中で受け止める。 バシャバシャと川に体を浸すと、体内の熱をゆっくりと奪ってくれた。 しばらくすると、ゴリラの顔に見える、高さ3mほどの大きな岩から 「理子!見とけよ!」 という声と共に父が空を舞った。 大きな水しぶきが私の顔にかかり、顔を擦っていると目の前に父がいた。 「理子もやってみるか?」 そう言われたけど、当時の私にはあまりにも高くてゆっくりと首を横に振った。 そのあと、ユカと母も浮き輪を手に走ってき、その頃には私のなかにあった黒い感情は綺麗に消え去っていた。 上がる水しぶきの中に含まれてる幸福を全身で浴び、私たち家族は日が暮れるまで騒ぎ続けた
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