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日が暮れると共に空は雲で覆われはじめた。
その雲はピシャリと空に貼りつけられていて、翌朝まで晴れることはなかった。
「残念やけど星は見えへんなぁ」
私たちがテントの中で寝る用意をしていると、
「ちょっと星見えるか確認してくる」
と言って出ていった父が帰ってきた。
日中の川遊びに疲れ切っていた私はそれほど落ち込むことも無く、むしろ、わざわざテントから出ることを億劫に思っていたので少し嬉しく思えた。
そんな私の横で
「えー、見たかった!見たかった!」
とユカは駄々をこねていて、そんなユカの頭を母のシワのある手が優しく撫でていた。
きっとユカみたいな人が上手に生きていけるんだ。
そう思いながら「おやすみ」と言葉を吐き、目を閉じる。
隣から聞こえる母とユカのヒソヒソ話が嫌でも耳に入ってくる。
どれほど強く瞳を閉じ、自らの体を闇の中に置いても、それからは逃げることができなかった。
隣から感じる幸せのオーラが私の孤独を深くして、そんな現実から逃げようと眠りを呼び込むが、なかなか上手くいかない。
今になって思うことだが、仮に死んだのが私だったら、きっとユカは大丈夫だっただろう。
優しくて、寂しがり屋のユカのことだから、もちろん沢山泣いてくれたと思う。
悲しみ、そして、絶望してくれていただろう。
でも、ユカは私とは違う。
少なくともしっかりと就職はしただろうし、恥ずかしいライブなんてすることなく生計を立て、そして、きっと恋人なんかを作って幸せに過ごせたに違いない。
脆く、儚いユカの弱い優しさは何よりの強さだったのだから。
そんなふうに思う度に私は消えたくなる。
でも、私はまだ死ねない。
少なくとも、画面の前の彼らは私を必要としてくれている。
だから、まだ死ねない。
あの日の夜は怖い夢を見た。
どんな夢かはわすれたけど、それはとにかく恐ろしかった。
ようやく眠れた私を、追い出すかのような、そんな夢を見ると私は居場所を失った。
じんわりと汗のかいたTシャツが気持ち悪くて、みんなを起こさないように気を使いながら脱ぎ、上半身は薄い下着のみになる。
それでも蒸し暑く、なにより、生きる上で十分な酸素を吸えない気がしたから、私はゆっくりと起き上がりテントから外へと這い出した。
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