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あの日以来、私はMiku☆の配信を見なくなった。
少しでも暇な時間があるとライブ配信アプリを立ち上げ必死に自慰行為をした。
日に日に増えていくフォロワー。
どのように特定しているのかは分からないがメールボックスにはAVデビューを促す内容のものがどんどんと溜まっていく。
タナカとはあれっきりだった。
次にバイトに行くと彼女は辞めていた。
代わりに入ってきたセガワという男は50を超えていて、シワシワの指で必死にお札を扱っていた。
「初めまして、セガワです」
「初めまして、西田です」
私たちの会話はそれだけだった。
接点の何一つない私とセガワの間には安心感があって、私はそれが心地よかった。
ライブ配信前に吐くこともなくなった。
だんだんライブ配信上の自分が1番ホンモノに近い気がしてきた。
ライブ配信を続けると次第にお金も溜まっていく。
多い時は数十万もの投げ銭が送られてくる。
私はそれを使ってタナカが持っていたのと同じカバンを買った。
出かけることなどほぼない私だから、タナカのカバンよりもずっと綺麗なまま、押し入れの中で眠っている。
そんな私の配信の中にまだタナカの彼氏はいるのだろうか。
そんなことをたまに考え、タナカの顔を思い浮かべる。
幸せは誰かの不幸の上に成り立っている。
思うと、タナカの舌打ちを聞いたあの瞬間からフワッと気持ちが軽くなった。
私から必死に彼氏を引き剥がそうとするタナカは私の中で、何かを守っていた、囲っていた壁を潰してくれたのかもしれない。
家とコンビニだけを行き来する生活で、私の体重は5キロほど軽くなった。
機械的な毎日に馴染むと、私の胃袋は怠惰を好んだ。
カップラーメン1つを完食することもなくなった。
それを私は嬉しく思った。
なんて効率的な体なんだ!
食費もかからない、くだらない燃料補給である食事に時間を費やす必要もなくなった。
軽くなる体は、この世に産まれてきた時に逆戻りしているようで、日に日に潔白な心になっていく。
「じゃあね、今日はもう終わるね」
画面に向かって言うその言葉が、私の一日の終わりを意味した。
ライブ配信を止めると直ぐにベットに倒れ込み、そのまま死んだように深い眠りについた。
なんの夢も見ることがない、暗い眠りについた。
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