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その夜から夢を見始めた。
赤いガーベラの花を持つみすぼらしい男はずっと花をすすりながら、誰かを待っている様子で、左腕に光る時計をチラチラと確認する。
その横を緩慢な歩きで通り過ぎていく女。
彼女には女特有の甘美な魅力はなく、代わりに屈強で卑屈な精神から滲みでるいやらしさというものを纏っていた。
コツコツと音を立てるハイヒールのヒール部分は荒く削れており、その女がどれほどの距離を歩いたのかを考えるだけで気が遠くなる。
一方、赤いガーベラの男はそんな彼女に見向きもしない。
いや、見向きもしない。と言うと齟齬がある。
気が付かないのだ。
それは、彼女の存在そのものにではなく、物質的な見当違いに近い感覚だ。
みかんと思い食ったものが金柑だったり、ブルーベリーのつもりがアロニアだったり。
とにかくそういったものに近かった。
男がちょうど187回時計を見た時、再び女は彼の元へとやってくる。
そのヒールは先程よりもすり減っているが、女の表情は変わらない。
相変わらず男はそんな女に気が付かない。
そんな現象が西田理子が眠っている間、終始繰り返されるのだ。
そして決まって、西田理子は泣きながら目覚めるのだった。
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