朝を抱いて夜を泳ぐ

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あの日以降、数ヶ月に1度見知らぬ客が理子の部屋を訪問した。 見えないところにある私への憎悪はいつか枯渇するものだと考えていたが、どうやらそうはいかないらしい。 彼らは決まって私の顔を見ると鳩が豆鉄砲を食らったような表情をし、謝罪し、そして走って消えていく。 何をそんなに驚くのか私には理解し難い。 私の住所がTwitterに公示され、その場所に来たのだから、私がそこに居ることは火を見るより明らかではないか。 大概のことでは心動かぬ私だけど、それでも彼らが去り際に言う「加工」という言葉には平常心を揺るがされる。 性器を握り画面を凝視する彼らは一体誰を見ているのだろうか。 厚さ数mmの画面を通すだけで私という人物は屈折し全く別のものになり彼らに届いていたという訳だ。 そうなると「私」はどこにいるのだろうか。 画面手前の女、つまり西田理子はライブ配信中、自己を否定し、変換し、西田ユカとして存在する。 しかしながら西田ユカすらこの世には存在していなかったのだ。 それは加工によって作られ、その姿を鵜呑みにした信者が作り上げる偶像であったわけだ。 そんな思案に暮れていると体重は更に2kg落ちた。 配信の頻度は徐々に減少し、週に1度するかしないか、程になってしまった。 それでも熱心なファンは多くの投げ銭を私に送った。 口座に貯まる金はその勢いを落としたものの、それでも毎月十分すぎる額が振り込まれてきた。 目が覚める。 コップ一杯の水を飲む。 食いきれないインスタントラーメンにお湯を注ぐ。 残った汁と、麺をシンクに流す。 尿を足し、再び布団に潜り込む。 生理が来た。 また1ヶ月が経ったのだ。 そんな生活の転換点となったのは、充電の切れたスマートフォンに溜まった大量の不在着信。 その全てが母の入院を知らせるものだった。 カーテンを開けると窓から放たれるヒンヤリとした冷気を感じれる。 そんな季節になっていた。
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