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20時ピッタリにタナカは
「お疲れ様です」と言いスタスタと帰って行った。
夜に合わないその声は私の中にストレスとして蓄積されていく。
「おつかれ」
入店音にかき消され、私の声は誰にも届かない。
この時間からは客も減り、私一人でも十分なのだ。
事務室から在庫を持ってき、棚出しを始める。
空っぽになっている棚に一つ一つ丁寧に在庫を押し込んでいき、埋まっていく空白に少し嫉妬する。
在庫品のあるものばかりではなく、肝心の人気商品の棚は空っぽのままだった。
棚の奥の方にカメムシが死んでいるのを見つけ、ティッシュを手に取り回収する。
トイレに流そうか考えたが、なんだか億劫に感じ、結局ゴミ箱に捨てた。
臭くないか、一応自分の手を臭うがいつも通りの私の香りがし安心する。
ちょうどその時、入店音がなり5人の若者が入ってきた。
外には5台の改造されたバイクが止めてあり、思わずため息がこぼれる。
バカなやつらは死ねばいいのに。過激な思想が頭をよぎり、私は手を洗った。
冷たい水が手のひらの熱を奪い、私をこの空間にピシャっと貼り付けた。
彼らは大量の酒をカゴに入れカウンターに置いた。
「年齢確認できるものはございますか?」
ルールなので私は尋ねる。
舌打ちされ、彼らはそそくさと店を出ていく。
カウンターの上に置きっぱなしにされたアルコール類を見下ろす。
見下ろしているのに、缶の酒に、さっきの子供たちに見下されている気がした。
カゴから取り出し1本1本元ある場所へ戻していった。
何度も、何度も、酒の冷やさせれている冷蔵庫とレジカウンターとを往復する。
缶に付いている水滴で私の手はゆっくりと濡れていく。
全てのアルコールを棚に戻し終えた時、私の手はぐっしょりと濡れていて、それをティッシュペーパーで拭き取る。
1枚だと足りないので2枚使った。
濡れたティッシュペーパーは向こう側が透けて見えて、私はそれをわざわざトイレに流す。
私の何かが包まれている気がした。
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