朝を抱いて夜を泳ぐ

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初めてMiku☆の配信を見た時、画面から聞こえる声に私の脳は困惑した。 ユカが生きている。 そんなふうに錯覚した心は、現実から私を引き離し、悲しみのない空間へと引きずり込んだ。 「この世界で私は幸せになれるかもしれない」 根拠の無い希望で私の足の裏と立っている地面とを力強く接着してくれた。 生きようとする意思に間に合わすかのように、鼓動は早くなり全身が脈打ち、熱を持ち、私の背骨はピンっと伸びた。 「りーちゃん、初めまして!ゲーム配信しているミクです!」 私のユーザーネームは、りこ、だったのだが、彼女はユカにそっくりなその声で、私のことをそう呼んだ。 聞こえてくる声は液化し、私の体の隅々にまで流れ込み、柔らかい感情で私を包み込んだ。 普段見ることないYouTubeを開き、たまたま流れてきたライブ配信。 その中で泳ぐと、あの頃の匂いを思い出すことが出来た。 吸いこむ酸素すら、あの頃のもののような気がした。 5人ほどしか見ていないライブ配信が、私とMiku ☆との間をさらに縮めたような気がした。 配信中にコメントするようなことはなかったけれど、それでも、見れる日は毎日ライブに顔を出すようにした。 そして、ライブ配信終わりに少ない額だがお礼の気持ちを送るとMiku☆は子供のように喜び、感謝の言葉を私に述べる。 そんな毎日が、私の生きる意味になりつつあっていた。 「あー、またやられちゃった」 暗い画面にゲームオーバーの文字がゆっくりと浮かび上がる。 彼女の言う 「やられちゃった」は死とは無縁のものを感じ、その度に安心感を私に植え付けてくれる。 存在すべてが、私の中にある、生きるための液体に溶け、そして、飽和し、沈殿している孤独を薄めてくれた。 「ここ難しいんだよね、どーするんだろう」 ゲームなどしたことの無い私だけど、いつか彼女のしているゲームを買おうと思った。 そして、 「本日もありがとうございました」 以上の繋がりを持ちたいと思った。 そんな夜はいつもより少し恥ずかしく、心地よく眠ることができた。 ユカに救われているような気がして、 あの日からただの余生となった私の日々を少しだけ明るく照らしてくれた。
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