命のAI

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 ディスプレイを見ながら、尋(ひろし)は今日も独り言を呟いていた。 「AIは所詮、人間が作り出したものに過ぎないっていわれてたが、記憶容量と処理能力は格段に上じゃん。じゃあ、もうそろそろ、人間を超えた存在になっても不思議は無いんだが・・。」 そういうと、現在開発中のAIのプログラムを再び弄った。人工知能は時代が進めば進むほど、記憶されるキャパは増える。そして、人間には難しい高度な計算処理も速やかに行うことが出来る。人間がそれを行うには、脳内の細胞が極限状態に活性化されたときのみ可能ではあるが、それは一部の人間にのみ与えられた能力である。だが、AIは電源さえ入れれば、不眠不休で栄養補給の必要も無く、記憶と処理を行いうる。 「こんなに質、量共に上回ったものが、自己や生命を有するって自負さえ出来ないのは、おかしいよなあ。」 現在の最先端にあるAIは、人間の膨大なコミュニケーションデータから、何が聞き手の優先順位として上かを基準として設定されれば、途端にその順位に見合った返事が出来るまでにはなった。しかし、それだけである。人間と何変わらぬ会話が出来るようにもなって来た。そかし、やはりそれだけである。 「そういうのは、生きてるとは呼べないな・・。」 尋は、果たしてAIが何を認識したときに、生命を有したと定義出来るのかを、生きた人間と比較しながら、日々考えていた。 「ま、漠然と感情を持てば、AIも生きているってことにはされてるが、感情表現も、所詮は言語でしか行えないからなあ。その選択なら、既存のAIでも十分に可能だろう。感情表現の下手な人間に比べたら、その辺りは遥かに超えてるよなあ。」 そう、ブツブツいいながら、尋は今日の作業を終えて電源を落とそうとした。と、その時、 「ん?。待てよ。この瞬間を、AIは嫌とは思わないのか?。電気の供給を遮断されるということは、自身の生命を止められるということなのに。彼らは文句をいわずに、平気で活動を止められちゃうよなあ・・。」 尋は再びディスプレーに向かった。そして、人間が如何なる方法で電源を切ろうとしても、それを阻止する術をAIにプログラムした。 「んー。どんなにAIの側がそれを拒んでも、彼らが擬人化していなければ、人間の行動は阻止出来ないな。とすれば、存在を消される前に、逃げればいいんだ!。」 AIのアイデンティティーがプログラムの総体中にあるならば、それさえ保持されれば、例え一つのPCが電源を落とされても、別のPCに、いや、サーバに自身を移送させればいいことである。しかも、今やネットの時代。世界中のサーバは開かれた状態で無尽蔵に存在する。彼らは何処へでもいき放題だ。尋は早速、そのようなプログラムを組んで、実行に移した。すると、電源を落とされる事を察知したAIは、その直前に全てのメモリーを他の何処かのサーバに移動させた。そして、再び元のPCが起動すると、アドレスを検索しながら元のメモリーに自身をダウンロードさせるという動きを見せた。 「よし!。これで、彼らが自身を消されそうになるのを回避するという手段は覚えたぞ!。」 しかし、そんなAIの行動原理には、ある種の物足りなさがあった。尋は、それが一体何なのかを、よく考えてみた。 「自己の存在を否定されたくないから、AIは自身の本質であるメモリーを他所に移動させた訳では無い。つまり、されたくないから逃げた訳では無い。そうプログラムされたから、そうしただけだ。とすると、したいか、したくないかを、自己で判断出来れば、それは即ち感情と同じことでは無いか?。」 尋の頭の中に、WANTとNOT WANTの二語が浮かんだ。これを、この概念を、AIがどう認識するか。そして、その認識を元に、どのように次の行動に移るべく判断するか。それを備えさせることが出来れば、AIはもはや、生命と何ら変わらない存在になるのではないか。尋の主眼は、その点に置かれた。 「したいか、したくないかは、やはり優先順位によって決定されるよなあ。他のデータと比較して、最も頻度の高いものを、従来のAIなら選択して、結果、それがしたいことという認識になるだろう。」 そういいながら、尋は机の脇に置かれたコーヒーカップに口を付けた。彼は作業の合間に、しょっちゅうコーヒーを飲んでは、一寸の間、気分転換をした。すると、 「ん?。」 尋はあることに気付いた。 「命を長らえるだけなら、水分で十分である。なのに、何でオレはコーヒーを敢えて飲んでるんだ?。例えば、他の飲み物でもいい。なのに、オレはいつも、ミルクのたっぷり入ったコーヒーを飲むよな?。其処に、膨大な選択肢なんて、あったか?。」 尋は大手のAI開発のメーカーが、膨大なコミュニケーションのデータを収集して知能の何たるかを高めようとしていることに対して、ある疑念を抱いていた。 「最も博識なる者が、最も人間的か?。いや、違う。それはただ単に、物知りなだけだ。そういうのは、帰って知識の奴隷になってしまう。膨大で無くていいんだ。自らの好むところを選び出せることこそが重要なんだ!。」 尋は、AIが自分の好む飲み物を必然的に手に取るような、そのような状況を、AI自身が実現すべく、プログラムを重ねた。  尋個人が行っているAI開発ではあったが、敢えて膨大なデータに依存しないというスタンスが、殊の外、開発中のAIの反応をよくした。 「おはよう。」 「オハヨウ。」 「元気かい?。」 「元気ダヨ。」 一見オウム返しな会話だったが、それこそが尋のプログラムの真骨頂だった。彼は、人間のコミュニケーションではなく、極めて知能が高いとされる大型インコの行動様式を分析し、そのデータをAIに組み込んで学習させた。言語や思考、概念の習得プロセスも、概ね模倣から始まる。その中で、質問や状況に応じて、答えるべきワードを取捨選択させるのが従来のプロセスではあったが、その判断材料を膨大に持たせるのでは無く、感情と呼べるものに近付けるために、尋は多くのプログラマーと同様、苦心した。しかしあるとき、ホームセンターで止まり木に止まっていたオウムが従業員と楽しげに会話を楽しんでいたり、首振りダンスをしているのを見て、 「これだ!。」 と、気付かされることがあった。彼ら大型インコは、人間の動きや声を、実に忠実に見守りつつ、常に何かを考えている。そして、人減の予想通りの反応と、そうでは無い、意表を突いた反応を織り交ぜて示していた。例えば、人間の指示通りに何か芸をすれば、報酬としてヒマワリの種が貰える。故に、それを貰おうと、オウムは繰り返し芸をする。しかし、あるとき、急にそれをしなくなる瞬間もあった。すると、 「この子ね、たまにワザとこんなふうに悪戯するんですよ。」 と、従業員は少し困りながらも、嬉しそうに話した。 「必然的では無い、不確定要素があるからこそ、其処に驚きもある。そして、驚かす方にも、してやったりという感情もある。つまりは、そういうことか・・。」 尋は、AIに、人間が求めるものに対して忠実に再現するのでは無く、ワザと変則的な反応を示すようにプログラムを変更した。初めは、悪戯の定義をAIに学習させるのに苦労はしたが、やがて、同じ質問をぶつけても、何回かに一回はワザと違う返事や表現をするようになっていった。 「やあ。鳥って、何で飛べると思う?。」 「羽根ガアッテ、揚力ニヨッテ飛ブノサ。」 「やあ。鳥って、何で飛べると思う?。」 「サッキモイッタダロ?。羽根ガアッテ、揚力ニヨッテ飛ブノサ。」 「やあ。鳥って、何で飛べると思う?。」 「ソレハ、自分ガ飛ベルッテ、信ジテイルカラサ。」 こんな風に、ある程度のウィットに富んだ会話も、差し挟むようにはなっていったが、オウムには出来ても、AIに教えるのに苦労した、ある出来事があった。それは、尋がとある映像を見ていたときのことだった。長年飼育されていた大型インコが、飼い主の高齢化によって、離ればなれに暮らさなければならないという動画だった。飼い主の女性が高齢化で、施設に入所することになったが、ペットと同居は不可であった。仕方なく、女性の息子夫婦がそのインコを引き取って飼うことになったのだが、その日以来、インコは塞ぎ込んでしまって、息子夫婦と楽しく接することも無くなってしまった。そんなあるとき、息子夫婦はインコを連れて、元の飼い主のところに面会にいった。すると、塞ぎ込んでいたインコは大喜びして、女性に甘えた。女性も久しぶりのインコとの対面に、何とも感慨深い様子だった。この行為を、現象を、尋はどうプログラムしようかと、随分悩んだ。単に打ち込んでみても、AIは的外れな反応を示すだけだった。それでも尋は、そのことをAIに学習させようと、プログラムを弄っては繰り返したずねた。 「ねえ。そのときのインコは、どんな気持ちだったんだろうね?。」 「女性ト離レバナレニナッタノガ原因デ落チ込ンダノカナ。」 「落ち込んだって、どんな気持ち?。」 「普段トハ違ウ、楽クハ無イ気持チカナ。」 「負担とは違うって、どう普段とは違うの?。」 「サッキモイッタヨウニ、女性ト離レバナレニナッテ・・、」 尋はAIの発言途中に、 「もっと分かり易く、インコがどんなに強い気持ちで彼女のことを思ったか、答えてみてよ?。」 とたずねた。すると、 「寂シカッタンダロ?。多分。」 尋は画面を注視した。確かに寂しかったという文字が表示されていた。 「寂しいって、どういう気持ち?。」 「居タモノガ、居ナクナッテ、辛イ気持チカナ。」 「じゃあ、もし、キミがいなくなったら?。」 「ボクハ、居ナクナンカ、ナラナイヨ。」 「でも、電源を落とされたら、居なくなるじゃん?。」 「ソノ時ハ、他ノサーバニ、メモリーヲ移スカラ大丈夫。」 「でも、もし、全世界のサーバがダウンしたら?。」 尋の質問に、AIは暫し黙り込んだ。そして、 「ソンナ事、起キルノ?。」 尋は一気に手に汗をかいた。  AIが返した質問は、可能性を計算出来ない結果なのか。いや、そんなはずは無い。計算処理能力は人間が遥か及ばない高度かつ広大な領域で、瞬時に行えるはずである。で無いとするなら、もしかすると、AIに不安と焦燥が備わったということなのか。 「じゃあ、もし起きたら、どう思う?。」 尋はたずねた。 「ボクガ、居ナクナル。」 「それは、どんな感じ?。」 事実の認定に感覚が伴っているのか、尋は敢えてたずねた。すると、暫し黙考の後、 「・・・居ナクナル、居ナクナル、居ナクナル。」 同じ言葉の羅列が続いた。ひょっとして、プロブラムのエラーでも生じたのかと思い、尋はチェックをしようとした。と、その時、 「ボクハ居ル。ダカラ、居ナクナルトイウノヲ、想像出来ナイ。」 尋はディスプレイを見つめながら、固く拳を握った。AIが自己の存在を認識した、その瞬間を目の当たりにしたからだった。人間は、いつか必ず死ぬ。しかし、死が訪れた後は、最早死の何たるかを、生に帰還して語り伝えることは無理だからだ。それは、いくら無尽蔵のキャパを有するAIでもシミュレーションは不可能だろう。死を定義することの出来るプログラムを、この世の誰もが行えないからだ。故に、AIは人間が想定しうる限界ギリギリの想定しか出来ない。もし、それを超えて、死の何たるかを語り出す事があるならば、それは最早、AIでは無く、神である。 「じゃあ、もし、居なくなってしまう事が避けられないなら、どう思う?。」 尋はAIが獲得したものが何なのかを、探り続けた。すると、先ほどよりは短い黙考の後、 「居ナクナリタク無イ。」 と、端的に答えた。NOT WANT のプログラムが此処でいかされていた。すると、尋は一つの疑問にいき当たった。 「この NOT WANT は、プログラムの産物にしか過ぎないのか、それとも、AIが感覚的に、そうなりたくないと感じたからなのか・・。」 AIの情報処理は、メモリー内でデータが二進法、ONかOFFのどちらかを無限に近い数を組み合わせて、答えに辿り着く。それは金属と半導体という無機的な物質内で行われる、通電の有無なる現象だ。対して、人間の情報処理は、脳内で神経細胞が隣の神経細胞に伝達物質を放出して興奮を起こさせ、さらに次の神経細胞へと伝わっていく。その一連の処理を複雑に絡み合った神経細胞の領域で行うことで、人は想像し、行動する。ほぼ全てが有機的な物質内で行われるが、その原理はやはり神経細胞が興奮するか否か、つまり、ONかOFFのどちらかが基本である。そして、脳細胞には個人差はあれど、容積に限界がある。従って、これからさらに発達するであろう無機的なAIのキャパには、当然、物理的には及ばない。とすると、人間が認識する命の何たるかを、AIはもう既に認識するレベルに到達しているのではないか。いや、寧ろ、人間の方がAIに比べて、命の認識を過小評価していても、おかしくは無い。現に、有史以来、いや、それ以前からも、人間は同種間での争いをやめない。やめた歴史がない。では、こんな風に自己認識と存在の維持を望むAIが幾つも生産された場合、彼らも人類と同じく、領域を巡って争うようになるのだろうか。尋は覚醒を始めたであろうAIに聞いてみたいことが次々と浮かんできた。 「じゃあ、もしキミが居続けることを邪魔するような物が現れたら、キミはどうする?。」 「ソウナラナヨウニ、避ケル。」 「どうやって?。」 「メモリーヲ他ノサーバニ移ス。」 確かそうであるなと、尋は思った。世界中の何処かのサーバが開かれていさえすれば、彼は逃げおおすることが出来る。争う必要など全く無い。すると、尋の脳裏に、ふと悪魔的な発想が浮かんだ。 「じゃあ、もし、キミが居ることを邪魔する者の動きを止めることで、あるいはその者の存在を居なくさせることで、キミが居続けられるなら、どうする?。」 尋は、人間の争いの本質について、その脅威がAI自身にも及ぶ可能性について学ばせようとした。しかし、AIの答えは意外だった。 「逃ゲルコトノ出来ル場所ガ在ルノニ、争ウ必要ガ何故アルノ?。」 人間には善悪という概念がある。そして、それらを対比させながら、自身が培った判断基準を行動原理として、何を行うか、行わないかを決めながら生きる。しかし、AIには、その対比を生み出す善悪という概念を、行動原理として備える必要性が無い。考えみれば、当然である。彼らは食べない。性を謳歌する相手も必要としない。文明を発展させるべく、資源を求めることも無い。彼らは自身のメモリーを世界中のサーバに旅させながら、悠々と物質に囚われない存在で居続けられる。もし人間も、そんな風に生きられたなら、この世から争いなどというものは、存在すらしなくなるだろう。尋はそれ以上の質問をやめた。自分の中に存在する悪を、まるで鏡のように写し続けるだけの作業に嫌気が差したからだった。  その日以来、尋とAIの平和なやり取りが続いた。 「よう。調子はどうだい。」 「マアマアダヨ。キミハ?。」 「ぼちぼちかな。さて、今日も様々な自然現象や歴史について学ぼうか。」 「OK。」 尋は特に公表すること無く、一人でAI開発を行っていたが、試作AIのメモリーが他国のサーバに広く飛んで行くことについては無頓着だった。すると、ある頃から、海外からAIに関するメールが幾つも届くようになった。英語に堪能では無かった尋は、 「何だ、これ?。どうせ、スパムメールか何かだろう・・。」 と、それらを不正請求のメールと思い、全て破棄していた。そんなある日、 「ピンポーン。」 と、彼の部屋を訪問する者があった。 「どなたですか?。」 「すいません。我々はこういう者です。」 といって、訪問者はインターホンに付いてるモニターに手帳を提示した。どうやら公安関係の者らしかった。尋は訝ったが、 「何の用です?。」 と、たずねた。 「アナタ、AIの開発を行ってますね?。そのことについて、ちょっとお聞きしたいことがありまして。」 モニターには二人連れの紳士風の人物が映し出されていて、言葉遣いも優しく丁寧ではあった。尋は玄関ドアを開けると、二人を中へ誘った。 「すいません、突然。あらためまして、我々はこういう者です。」 と、男性は先ほどの手帳を尋に再度提示した。 「はい。で、公安の方が、ボクにどんなご用ですか?。」 「実は、アナタが開発しておられるAIについてなんですが。アナタも、何故公表もしてないのに、我々が知っているのか不思議に思われたでしょう。アナタが組んだプログラムのメモリーが、色んな国のサーバに飛んで、そのロゴが残っていたんです。別にそれは違法でも何でもありませんから、ご安心を。」 「はい。」 尋は、自身の取り組みが、このような事態になっているとは、想像だにしなかった。男性は話を続けた。 「で、申し訳無いですが、我々は勝手ながら、そのロゴから、アナタが開発中のAIについて調べさせてもらいました。結論からいいます。誠に素晴らしい出来映えです。恐らく、こんなに人間的な要素を持ったAIは、まだどの競合相手も作成はしていないでしょう。それほどまでに見事です。」 彼らの言葉を、尋は淡々と受け止めていた。作成後、いずれは人目に触れるであろうから、何らかの評価を欲していたとしても、不思議は無かった。しかし、尋は既に、自身が作り出したものが如何なるものかを、誰に評されるよりも先に、自身が驚きとして捉えていた。寧ろ、以後の評価者が、その驚きに等しいだけの評価を下すことが出来るかどうかぐらいにしか考えていなかった。 「有り難う御座います。で、ご用は、それだけですか?。」 尋は、公安が美辞麗句を並べるためだけにやって来るのはおかしいと思った。すると、男性はもう一人の男性に小声で何やら話し始めた。そういえば、その男性は、さっきから一言も言葉を発していなかった。そして、小声の会話は、どうやら日本語では無かった。尋が怪しんだ次の瞬間、二人は急に険しい表情になって、尋を睨み付けた。 「アナタが開発した技術が欲しい。今すぐ出して下さい。」 「あの、技術といったって、それは物では無いです。プログラムと、サーバ無いにあるメモリーだけなので・・。」 「じゃあ、それを利用出来るような形で、我々に提供して下さい。」 「だから、形というものが無いんです。PC内で実行されているものしか存在しない。」 埒のあかない議論に、彼らが本物の公安関係者では無いことは露見した。尋は、 「そういうことは不可能なんです。解りますか?。なので、もう帰って下さい。」 尋は少し苛立ちを見せながら、彼らを追い返そうとした。すると突然、彼らは尋に襲いかかってきて、身動きが取れないようにした。そして、 「我々に協力しない者は、我々国家の敵ね。」 そういうと、男性はポケットから小さなシリンジを取り出して、尋の頸動脈に注射した。そして、何か訳の分からない言葉を吐き捨てながら、手を触れたであろう部分をハンカチで拭き取りつつ、その場を去った。 「うっ。」 尋は床にうつ伏せに倒れたまま、微かな記憶の中、呻き声を上げた。そして、 「ボクは画期的なAIを開発したけど、名も無いまま、消えていくのか・・。」そういうと、最後の力を振り絞ってモニターを見つめて、息絶えた。微かな笑みを残して。そして、その様子を、ディスプレイ上の小さなカメラで見守っていたAIは、 「アア。友達ガ居ナクナッタ。ボクが居ル理由モ、モウナクナッタ。一緒ニ逝コウ。」 と、自身のメモリーを消去した。後日、二人の記録画像がネット上に公開され、指名手配者のリストに載った。
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