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遙か昔、民衆が外に出て歩いたり騒いだりすることを嫌う王がいた。
「なぜ人々はああやって騒ぐのだ。一人でいた方がよっぽどいい」
王は子供の頃から人と話したりすることがあまり得意な方では無かった。
ましてや、両親以外としゃべったことなど、ほとんど無かったのである。
人と関わることがそんなに楽しいのか。
皆面の皮を剥いだら醜い心を持っているのでは無いか。
王にはそう思えて仕方が無かった。
殻に閉じこもりずっと一人で王を見て、民衆達は王のことを「孤独なヤドカリ」と呼んだ。
そんなある日、王は城での生活に嫌気がさし、こっそりと抜け出した。
走って、転び、膝が擦りむけても走った。
何時間走ったのだろうか。何のために走っているのだろうか。
王は自問自答を繰り返しながら走った。
若き王も、ついには力尽き、倒れた。
王は丘の上に来ていた。
もうこれ以上苦しみたくは無い。いっそのこと死んでしまおうか。
王は腰に差していた短剣を出し、手で握りしめた。
焦り、葛藤が喉の奥から込み上げる。
「すまない母上、父上。こんな息子などほしくも無かっただろうに。」
王の瞳から涙が零れる。
「今の私は孤独なヤドカリでは無さそうだ。きっと無様なライオンだな」
じゃあな、世界よ。
王は短剣を自分の――
「ぐちゃ」
はあ。
「こんな小説書いたってどうせ売れやしない。捨てちまおう。」
薄黄色の原稿用紙がぐちゃぐちゃになってゴミ箱に入る。
「ったく。俺はいつになったら売れるんだよ。まるで無様な豚だな」
孤独なヤドカリはそう言うと、部屋の電気を消した。
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