ファイトマネーの行方

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 バシ!バシ!  一心不乱に俺はサンドバッグを叩く。汗が身体中から吹き出る。  ジムの中は蒸し風呂のように暑い。  何も考えずに無心になってパンチを繰り出す。  佐伯春香が聴覚の異常を訴えてきたのは先月のことだった。  春香は施設にいた頃から、まるで幼馴染のように俺と遊んだ。春香はよく、子どもの頃から施設の女の子たちに集団でいじめられた。そんな春香を俺は助けた。いじめっ子の一人を捕まえて、今度、春香に手を出したら百倍倍返ししてやると凄んだ。  恐れをなしたいじめっ子たちはやがて、春香に手を出さなくなった。  春香は俺に何度も、ありがとうと言ってくれた。俺はあの頃から、春香に恋をしていたのかもしれない。    やがて、春香は高校生になった。昔に比べて大人びた彼女に比べて、俺は相変わらず成長が止まったかのように考え方が子どもだった。  俺は自分を捨てた親を許せなかった。春香もコウノドリポストに入れられ、この施設に行き着いた。 「親を恨んではダメよ。何かやむに止まれぬ事情があったのよ」  春香は言って聞かせた。だが、俺はその時は冷静になって、そう思うのだが、しばらくすると、どうしても親に対するわだかまりが芽生える。  そんな時、俺は体育館の中にぶら下がっているサンドバッグを叩いたり、蹴ったりして気を紛らした。  その俺の姿を見ていたひとりの男性が俺に近づいて言った。 「君、ボクシングに興味ある?」
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