呪い。

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「…………へえ、てっきり貰う側だとばかり決めつけていたよ、すまない」 目をまん丸にして彼はそう応えた。 そりゃそうだろう。友チョコ文化のある女子じゃない。 男の僕が渡したかった、なんて、告白したかったと言っているようなものだ。 「……受け取ってもらえたのか。」 「え?」 「だから、その……そいつとは……」 「あ、あー……渡さなかったよ」 「そ、そうか。」 告白は上手くいったのか、付き合うことになったのかという意味だろう。 答えは、ノーだ。渡すことすらできなかった。 彼に合ったものを用意することすら、できなかった。 1人で浮かれて、馬鹿みたいだ。 プリンの甘さすらコーヒーでかき消した彼だ。 きっとマカロンなんて口にしようものなら、甘すぎて吐いてしまうだろう。 吐くまでは行かなくとも、彼の口に合わないであろうことは、想像に容易かった。 「……何故やめてしまったんだい?」 「え?」 「どのクラスの女子かは知らないが……受け取ってもらえなかったのではなく、渡すのをやめたんだろう?何故なのかと、思って。」 勿論言いたくなければ言わなくていいのだけど、と彼はあわてて付け足した。 女子。まあ、そうだろう。 甘いものが苦手な彼は、当たり前のように僕の告白相手を女子だと思ったらしい。 それが普通だ。それが正しい。 僕がおかしいだけ。 「……甘いものが苦手なんだって。ちょっとの甘さでも、すぐコーヒー飲まないといけないくらい。僕、それを今日、初めて知って……」 はたと、説明しすぎたかと思ってから、すぐにバレることはないと思い出した。 当たり前のように僕の好きな人を女子と思う彼は、自分が好かれているなんて、自分がとびきり甘いものを渡されようとしていたなんて、夢にも思わないだろう。 「ふうん……」 彼は考え込むというようにも、興味が無いというようにも受け取れる返事をした。 多分、後者だ。 と、思ったんだけど、僕の予想は外れたらしい。 「……その人が話しているのを聞いたのかい?」 「ん、っと、話してるのをってか、話してたっていうか」 「その人が君に直接そう言ったのかい?」 「あ、うんそう」 「どの程度の甘さも駄目だと、言ったのかい?」 「そういうわけじゃないけど……随分苦いケーキのこと、甘いって言ってたから……」 「……今日?」 「……今日」 「…………学校でケーキを?」 「い、や、どちらかと言うと外……?」 「ふうん…………」 バレて、ないよな? 「……用意した、のか」 「……うん」 「そうか……」 「……」 「あー……そのだな、それが分かっていれば俺だって余計なことを……」 「…………」 「いやっ……別に、深い意味は無いんだが……別に、渡したっていいんじゃないか?」 「……でも、困らせるから」 「いやっ困らない、かもしれないじゃないか、君が用意したものなら食べられるかも」 「そんなことあり得ないよ、僕用意したの、マカロンだし……手作りの」 「手作りっ??」 「そう……重い、よね」 「いやっ重くない!手作りなんて食べたいに決まっているだろう!……いや俺は知らんがな」 「……そんな気を使わなくても」 「気を遣ってるんじゃない!重いだなんてむしろ俺……っ、そ、その人は、むしろ嬉しいと思うし」 「……でも、甘いもの、苦手だってさっき」 「にっ……苦手ではあるが、そもそもコーヒーと合わせれば充分に味わえるしだな」 「わざわざ甘いもの受け取らなくたって、別で甘くないもの買ってくることも……」 「そんな……っ、だって折角君が……そ、その、そのだな、呪いだ!」 「……ま、呪い?」 「こ……告白、しようと思って、作って、くれたんじゃ、ないのかい」 「そう、だけど」 「それなら……その気持ち自体が嬉しい……だろうから!その人は! ……呪い的な感じで……君がそうやって作ってくれたものなら、どんな味でも、喜んで食べれる……と、思うがな!」 「……受け取ってもらえなかったらって思うと……」 「受け取るからっ!!」 焦りに焦った彼はいよいよガタッと席を立ってしまった。 店員と僕ら以外、誰もいないちいさなカフェ。 差し込んでいた夕日は薄くなり、外は暗くなる。 「そ、その……」 「…………」 「受け取る、と思うから……」 「………………」 彼、もう顔が真っ赤だ。こんなに焦ってる彼を見るのは珍しくて、それで、ああ、きっと僕の顔も真っ赤になっている。 「あの、だから……」 「…………」 「……君の手作りなら、とても食べたいし……ホワイトデーだって、真剣に用意するから……」 「………………」 「あの、つまりだな……」 「……うん」 「……君のことが、好きだから……」 「…………」 「だから……俺に、くれないか」
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