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おまけ:その2『海の家』
夏、海水浴、海の家!
俺は高校時代の友人に誘われて、1日助っ人で海の家の手伝いを頼まれていた。
もちろん、天王寺には内緒で。
照りつける太陽の下、浮き輪貸し出し、飲み物提供、俺は他のメンバーとともに、汗だくになって動き回っており、休息時間には海へgo。
その結果、俺の背中は酷い日焼けが……。
打ち上げという名で、盛り上がった俺は、そのまま友人佐藤の自宅に上がり込んでいた。
一人暮らしだからと、佐藤は快く泊めてくれたけど、俺は日焼けが痛くて仰向けに寝れず、ベッドを借りるはめに。
「おい姫木、遊ぶか寝るかどっちかにしろよ」
なんとかシャワーを浴びた俺は、携帯片手にうとうととしてて、そのまま眠ってしまったようだ。
携帯画面にゲームが表示されており、佐藤はゲームをするか寝るか、どっちかにしろと、俺を起こしてくれた。
「あ、うん、……寝る……ッ、痛ぅ……」
寝ぼけたまま携帯を操作して、寝返りを打ってしまった俺は、背中に走った痛みに目が覚める。
「大丈夫か?」
「ううっ、大丈夫じゃない」
「……ったく、薬塗ってやるから、背中見せろ」
火傷みたいに真っ赤になった背中を見ながら、佐藤は薬箱を探す。海で仕事をしているため、そういった薬は一通り揃えてある。
初めは大丈夫だと言っていたので、佐藤もただ赤くなっただけかと思っていたのだが、夜になって、皮が剥け始めていた。
俺はなんとかTシャツをめくり、佐藤に背中を見せる。
まさかこの時、俺の携帯が通話中になっているとは知らずに……。
「痛っ! 佐藤、痛いって……」
「我慢しろ、痛いのは始めだけだ」
「ひゃ……ぁ、冷たッ!」
「こうしておかないと、お前が痛い思いをするだけだぞ」
「そうだけど、痛いんだって、ほんと」
「後で良くなる」
「やっ、そこダメだっ……て……」
「ここがすごいことになってる」
「……もう、触んな」
「触らなきゃ出来ないだろうが」
「もうちょっと、優しくしろよ」
「十分優しくやってる。さっきよりいいだろう」
「……う、ん、……いいかも」
「あと少しだから、我慢しろ」
「分かったから、あんまり擦るなよ、痛いんだから」
「ゆっくりすればいいんだろう……」
「ん……ぅ、佐藤……、そこ気持ちいい……」
俺たちの会話を電話越しに聞いていた人物は、そこで通話を切っていた。
佐藤に塗ってもらった薬がよく効いて、俺は疲れもあって、そのままぐっすりと夢の中へ。
「風邪引くぞ」
布団に入らず熟睡してしまった俺に、佐藤は背中の日焼けを考慮して、軽いタオルケットを掛ける。
「さてと、俺も寝るか……」
小さなあくびをしながら、佐藤も顔洗って寝ようと、洗面所に向かい顔を洗う。
じんわり浮かんでいた汗を流して、洗面所から出たところで、突然部屋の明かりが消えた。
「え、停電か?」
佐藤は雷も鳴ってないのに停電なのか? と、窓の外を見るが、外は電気がついている。
まさか、このマンションだけ停電になったのかと、佐藤は考えたが、次の瞬間、背後から何者かに羽交い締めにされ、口を塞がれた。
「んんッ……」
「大人しくしろ」
低い男の声がして、佐藤は首を縦に振る。
泥棒? 佐藤は家には何もないと思いつつ、玄関の鍵は確かに閉めてあったと思い出す。
それに、電気のついている家に押し入るのもおかしい。
泥棒というより、強盗かもしれないと、佐藤は殺されるかもしれないと、震えが止まらなくなった。
「いました」
強盗は二人組なのか、奥からもう一人の声がして、佐藤は絶体絶命の危機を覚悟する。
「……はい、そのように」
奥にいた男は誰かとやりとりをしているのか、ぶつぶつと一人言を話し出す。
少しして、奥の男が戻ってくると、その肩には姫木が担がれていた。
(姫木っ!)
もしかして、殺られた? 佐藤は真っ青になって姫木を見たが、息をしているのが分かり、ひとまずほっとする。
姫木を担いでいる男は、耳元を触りながら、誰かと無線でやりとりしているのか、任務遂行の状況を話し出す。
「確保完了しましたので、ただいまより帰還します」
目的は姫木?!
佐藤は、何かヤバイことに手をつけているのではないかと、姫木を疑うが、男の次の台詞で心臓が止まりそうになった。
「一緒にいた男は、いかがしますか?」
消される?! 佐藤は一気に引いた血の気と、恐怖にガクガクと膝を揺らす。
「よろしいのですか? ……はい、了解しました」
「こいつの処分はなんと?」
「他言無用を守るならば、解放しろとの仰せだ」
男たちはそんな会話を交わした後、佐藤の耳元に顔が近づいた。
「この事は、誰にも話すな。……話せばお前の命はないと思え」
グッと締め上げられ、低くそう囁かれれば、佐藤は夢中で首を縦に振った。
「いいな、全部忘れろ。わかったな」
(忘れます、忘れます、この事は、絶対に言いませんからっ)
内心で叫ぶ佐藤は、涙目で何度も何度も頷く。
それを確認した男たちは、姫木を担いだまま、音もたてずに部屋を去った。
男たちが部屋を出て数十秒後、部屋に明かりが灯り、佐藤は恐怖のあまり床に座り込んでいた。
足に力が入らない。
「姫木……、お前絶対ヤバい橋渡ってるよな……」
連れ去られた姫木の安否を心配しつつ、無事でいてほしいと願わずにはいられなかった。
それから、数分後。
今度は外から大きな風の音が響き、窓ガラスが割れんばかりの音をたて始めたので、佐藤はヨロヨロとベランダに向かった。
暗闇にライトが見えたが、車のライトにしては高すぎる位置で、明るさも眩しすぎる。
光と音の元を辿って、頭上を見上げれば、一機のヘリが飛び立とうとしているところだった。
「屋上にヘリ?」
佐藤はなんでこんなところにヘリが? と、思いつつもじっとそれを見つめた。
旋回したヘリは、そのまま飛び立っていく。
その時に確かに見えたロゴに、佐藤はまた床に崩れた。
「あれって、天王寺家の……」
飛び去っていくヘリを見送りながら、佐藤は姫木がとんでもない何かに巻き込まれていると確信して、全身を震わせた。
「……お前、一体何やったんだ」
あの天王寺家に目をつけられるなんて、尋常じゃないと、佐藤はブルッと背筋を伸ばす。
姫木は、大学でできた仲間にそそのかされて、きっと。
悪いことができるような奴じゃないと、佐藤は信じつつも、「命はない」と言われた台詞を忘れられず、今はただ、姫木の無事を祈ることしか出来なかった。
◆◆おまけ、おしまい◆◆
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