おまけ:その1『裸エプロン?』

1/1
36人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

おまけ:その1『裸エプロン?』

【※1話の小話になります】 姫からは、相変わらず触れてよいとの許可は降りてないが、共に帰ることは許可がおり、私は迎えを断り、姫と帰る日を幾度かつくれ、とても嬉しく思っていた。 罪を許してもらえたのなら、一番に抱きしめるとも決めている。 して、明日は、帰りに本屋に寄りたいと申していた姫と帰る約束をしている。私はただそれだけで、顔が緩んでしまうのを、気を保って引き締めつつも心が浮足立っていた。 「ただいま戻った」 見慣れた玄関を開け、家路につけば、執事やメイドが迎えに出る。 私の鞄を持ち、上着を脱がせ、家の中へと進む。 それは、何も変わらないただの日常。 だったはずなのだが、本日私はいつもの玄関で呆然と立ち尽くす結果となった。 「おかえりっ」 明るく元気な声がしたかと思うと、奥から白いフリルつきのエプロンをした姫が走ってきたのだ。 一体何事かと、私は自分のもとへと走る姫をただ見つめる。 姫は玄関先まで走ってくると、荒い呼吸を整え、 「はぁ、はぁ、……天王寺、おかえり」 とびきりの笑顔で迎えてくれた。私は跳ね上がる嬉しさと同時に疑問が浮かぶ。 何故、姫が我が家にいるのだろうか? けれども、姫は笑顔を見せたまま私をじっと見つめてくる。 「ご、ご飯作ったんだけど……」 「姫がかっ」 「初めて作ったから、美味しくないかもしれないけど」 大きな瞳を恥ずかしそうに伏せながら、姫がそんなことを口にする。 味などどうでもよい。姫が私のために料理を振る舞ってくれる、それが美味しくないはずはないのだ。 私は、この世の楽園は今ここにあると知る。 「私を思い作ってくれたのであろう、美味しくないはずはない」 「……でも」 「姫が作ったものは、全て私が食べる」 姫の手料理、他の誰にも食べさせるわけにはいかぬ。 私は断言した。 さすれば、姫は嬉しそうに顔をあげ、こぼれ落ちそうな大きな瞳を、再度私に向けてきた。 「じゃぁ……、ご飯にする? お風呂にする? ……それとも……」 エプロンの裾を掴みながら、姫が熱を帯びたとてつもなく可愛い顔をしてみせる。 頬を赤く染め、照れるように声を濁す。 この後、ご飯が先か、それともお風呂に入るのが先か、姫はそう問いかけ最後を濁した。 「それともとは?」 他に何かすることでもあっただろうかと、私は少々考えたのだが、姫の次の台詞に頭は真っ白と化した。 「それとも、俺にする?」 恥じらいながらエプロンの裾を掴んで、赤らめた頬と上目遣い、ほんのりと濡れている唇でそのようなことを言われ、私は鈍器で頭を殴られたような衝撃に襲われた。 こ、これは、私の理性と精神と忍耐を試しておるのか。 触れてはならぬと、処罰を受けている私に対する挑戦状というのか。 私は一体何を試されておるのだ。困惑する天王寺から何も言葉が返ってこず、姫は上目遣いに見上げ、忍耐を崩壊させる言葉を発した。 「俺じゃ、ダメ……?」 唇に指をあてがい、姫がおねだりするように迫る。 心臓が飛び出しそうになり、呼吸もままならなくなり、首から上が完全に沸騰点を超える。 私は鼻から赤い何かが垂れるのを、必死に手で押さえた。 理性という欠片が残っていなければ、このとてつもなく可愛い姫をすぐにでも抱き上げ、自室へと連れ込み、その熟れた唇を奪って脱がせてしまうところだ。 いや、せっかくの可愛いエプロンだ、エプロンはそのままがよいのでは……、となれば、服だけ脱がせエプロンだけを着せるというのはどうだろうか……。 『見ちゃダメ』 裸にエプロンだけを身に着けた姫が、エプロンの裾を引っ張り、下肢を隠しながら艶良くそんな台詞を妄想の中で放った。 妄想だと分かっていても、私の鼻からは大量の赤い液体が……。 「何を申す! 駄目であるわけがなかろう」 「……じゃあ、俺を食べて」 両手を広げて私に抱きつこうとした姫に、私は理性も完全に手放す。 「姫っ!」 その身体を受け止めようと私は大きく手を広げた。 して、ハッとした。 高鳴る鼓動はそのままに、見慣れた天井が視界に映る。 そこは自室の天井。 私はようやくあれが夢であったと知る。 「……何を考えておるのだ」 右手を顔に覆い被せ、自らの恥を隠すように落胆する。 それでも、アレはとても幸せな夢であったとも思う。あのような姿で、あのようなことを言われたら、私は理性など簡単に失える。その自覚はあった。 現実であったならどれほど良かったかと、私は静かに目を閉じた。 同じ夢など見れるはずもないとわかってはいるが。 「姫に触れられぬ禁断症状が現れておるのか……」 右手で顔を覆ったまま、私は起き上がる。 自分のしたことを忘れたわけではない。友達という距離まで許してくれた姫に、感謝していないわけでもない。 それでも、触れたい、抱きしめたい、キスをしたいという欲望が時々抑えられなくなりそうで怖い。 「姫、本日も愛しておる」 日課のようになった、私の朝の独り言。 伝えられない想いが胸を埋め尽くすため、口に出すことで今日という日を迎える。 そして、本日は昨日より近づけるだろうかと、毎朝願うように部屋を出る。 少しずつで構わない、どうか姫との距離が僅かでも縮まることを祈るばかりである。 いつになるやも分からぬが、恋人になれるように努力するまでと、私は朝の清々しい空に視線を向けた。 天王寺尚人、初めての恋である。 ◆◆おまけ、おしまい◆◆
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!