2人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
『肝油』ってご存知ですか?
私は1970年代生まれです。別に聞いてませんけど、と言わないで下さい。
私が幼稚園ぐらいの頃、一日一粒と言う制限付きで『肝油』という砂糖でコーティングされたグミのレトロ版みたいなものを母親から貰っていました。
今にして思えば大して美味しくもない(失礼)代物だったのですが、当時は「もっとちょうだい、もっとちょうだい」と母親にしがみついては、
「コレはおくすりとおんなじやから、アカンの!」
と振りほどかれていました。
人間ダメと言われると欲しくなる。やってみたくなる。不思議です。
子どもには背の届かない高い棚の上に『肝油』の平べったい缶が見えている。でも食べちゃダメ。コレは拷問です。
3つ歳上の兄と二人で恨めしそうに『肝油』の缶を下から見上げる。兄が言いました。
「肩車したるからお前アレ取ってや」
兄もまだ小学校低学年。嫌な予感しかしない展開ですが、あまり賢い子どもでは無かった私は二つ返事で兄の首に跨りました。
「いくで」
ふらふらしながら立ち上がる兄。『肝油』に手を伸ばす私。棚に手を掛けた瞬間、棚が落ちました。バランスを崩した私と兄は勿論転倒。肩車式バックドロップで私は頭を強打。飛んできた母親に病院へ連れて行かれ、家に帰ってからは膝詰めの説教タイム。
中毒患者さながらの『肝油』への切望。
『肝油』の何処にそんな魅力があったのか、今にして思えば謎だらけです。
きっと、禁断の果実は甘い、という奴でしょう。
『肝油』は脂溶性ビタミン、つまり水に溶けず肝臓に貯蔵されるビタミンAとビタミンDが豊富なんだそうです。必要以上に摂取すれば過剰症で、下痢、腹痛、嘔吐、皮膚のかゆみなどを引きおこす可能性があるとのこと。
今では普段の食事で取れる栄養も、あの頃は不足しがちだったのかも知れません。なので子どもたちの成長発育のため一日一粒の『肝油』でそれを補おうというお母さん達の愛情の賜物だったんですね。
結局『肝油』の缶は私達子どもの見えない所に隠されてしまいました。
今でも楽天市場やAmazonで『肝油』を購入する事は出来ます。でも食べたいとは思わない。
やっぱり果実は、禁断で無ければ甘くないのでした。
最初のコメントを投稿しよう!