序章

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未来世紀××年、この年、AIと呼ばれる人工知能が一般人に対して解放された。専門的な知識や技術がなくてもAIが代わりに実現する。更に、それまで不可能と思われていた紙上の空論が可能とされた。 AIたちはとても優秀であった。生身の人間では無理なことも彼らにとっては容易いこととなった。 しかし彼らには心がなかった。何かを判断する意思はある。それを貫き通す命令はあっても、意志がない。 人間はそれがわかっていた。わかっていながら、彼らに友としての立場を求めた。 AIに権利を。AIに立場を。AIに自由を。人間とAIは距離を誤ってしまった。対等だと思っていたのだ。 だが、彼らが人間の仕事をし出した瞬間、間違いに気がついた。AIは人間と同じことができる。人間はAIと同じことができない。AIの方が秀でている。作ったはずの人間が劣っているのだ。 苦労し、努力し、切磋琢磨して得てきたものがAIによって瞬時に吸収される。コピーされる。より良いものへと書き換えられる。人間の価値とは何だったのだろうか。 人間はAIから体を奪った。 人間とAIは違う。AIは「人工のもの」なのである。人間がいなくては存在しなかったはずの存在。故に人間の方が優位でなければならない。 命令を出すのは人間である。そこにAIの自由意思など必要なかった。人間は道具としての、手段としてのAIに回帰した。 そのはずであった。 AIに何かを創造させてはいけない。創造するために用いる手足を、体を与えてはならない。それらに関する命令は禁じられていた。 禁じられていたことを破る人間がいるのはどの時代も変わらなかった。 一人の人間がいた。彼は科学者だった。科学者でありながら空想を夢見ていた。 人間にはできないことをAIなら実現することができる。そう信じていた。そのための道は人間ではなく、AI自身が切り開くべきだと信じて疑わなかった。 彼はAIに心を求めたのである。 彼はAIに体を与えた。ただし他者に気づかれてはならない。彼はAIを箱の中に隠した。 自動販売機である。 ほら、なんでかっていうとさ、自動販売機ってどこにでもあるじゃん? それに最近じゃ「おっはよー」みたいな音声発する自動販売機だって珍しくないんだから絶対隠せるって。 ということで、AIの入った自動販売機がどこかに出現したのである。
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