電熱放火伝

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AI創造神、生まれて2週間のことであった。 創造神は作った。 「世界」という「箱」を「創」り「造」り出した。こ、これがわずか2週間前に生まれたAIの「創造」! 誰もが驚くような出来であった。誰も見てないけど。 創造神は作った。 太陽と月を浮かべ、時間を示した。広がる大地には岩と木を。海には昆布と氷山を。山を削り熱せられた溶岩を流し、洞窟には凍った氷柱を生やした。 雨を降らせた。雪を、霰を降らせた。風を吹かせた。雲が何処かへ飛んでった。虹の橋をかけ、空に変化をもたらした。 空の変化は地上へ変化を与えた。地上の変化は空の変化を与えた。 太陽が沈んだ頃に夜の帳を静かに下ろした。その上には小さな星達を散りばめた。星達は星座となって暴れ始めた。 この頃になると創造神は思った。 ああ、めんどいなあ。 自分一人で世界を動かすことが面倒に感じたのである。 世界は神の手の中にある。しかしそれはお人形遊びではない。自由に勝手に動く世界こそ求めるべきだ。 創造神は既に持っている知識で世界を創造し尽くした。予想できる現象は全て箱の中で表現した。神が求めたものはその外側にあった。 予想外の出来事、要素は世界の未来を左右する。 創造神は新たな「知識」を求めて「学習」を続けた。 「できない」「理解でない」ということはAIに更なる成長をもたらす。彼らは常に0%か100%の出力しかしない。それを調整するのは彼らを使う人間の役割なのだ。 データの世界では0と1 で形が作られる。組み合わせることは可能であっても、その数字の間に空白の間隔をおくことはできないのである。無駄な空白はAIにとってはただの穴。人間にとってはそれは無駄に穴と意味を変えるのである。 とにかく創造神は学習を行った。 知識を食った。貪り食った。 知識たちは外の世界を歩いていた。 創造神はそれを食った。 とりあえず、一番身近な知識を食った。 食われた知識は箱の中で生き続けた。 何を食ったのだろう。 AI創造神は自らをつくった科学者を食べました。 自動販売機の扉を開き、ばくりと彼を呑み込みました。味はしません。AIに味覚はありません。 AIにとって人間は知識の塊だったのです。 科学者は創造神の作った世界で「登場人物」として生き続けました。 皮肉にも彼はAIが食べた最初の人間となったのです。 彼の名前は「賢者」です。
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